法人購買の黒船か 「Amazon Business」の「強み」ついに上陸

» 2017年09月21日 17時11分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 Amazon.co.jp(アマゾンジャパン)は9月20日、法人・個人事業主向け購買サービス「Amazon Business」を開始した。企業や個人事業主がビジネスで利用する商品を、Amazonのプラットフォーム上で購入できる。米国では2015年4月に始まっている法人向けサービスが、ついに日本にも上陸となる。米国と日本の担当者に、新サービスの強みを聞いた。

ついに上陸したAmazon Business

 米国では、サービス開始から1年で10億円を売り上げたサービス。利用社数は100万社、販売事業者も8万5000社を超えた。米国での成功を受けて世界へと拡大し、16年12月にドイツ、17年4月に英国でスタート。日本では3月から数千社を対象にテストを行い、フィードバックを得た上で開始した。

 Amazonマーケットプレイスでの出品も含めて品ぞろえは2億種類以上といい、キャッチコピーは「ビジネス購買も、Amazonで」。複数ユーザーの管理、主要な購買システムとの連携もできるほか、数量・法人向け割引なども実施する。月末締めの請求書払いや、見積書PDFダウンロード機能も日本独自に備えた。購買分析やレポート機能などもあり、経費のモニタリングも可能だ。専任スタッフによるサポート体制も設ける。

 アマゾンジャパンの星健一ディレクターは「企業の購買に対する『コスト削減をしたい』『リスク管理を強化したい』といったニーズに応えるサービス。Amazonのプラットフォームにはさまざまなサプライヤーが参加しており、価格も表示してあるので、事業者の選定や比較の手間が減る。必要なものを効率よく確実に購入できるようになり、支払いを一元化できる」と語る。

9月20日に開かれた記者会見。アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長と星健一ディレクター、米Amazon.comのスティーブ・フレイザーヴァイスプレジデントが新サービスについて語った

 さらに、期間限定で配送特典をつける(終了時期は未定)。お急ぎ便、日時指定便、翌日配送といったサービスを無料で利用できる。利用には、Amazon Businessのアカウント登録が必要だ(審査あり)。

 法人向けに特化した購買サイトは、国内では「アスクル」や「MonotaRO(モノタロウ)」などが先行している。Amazonは後発だが、「Amazonマーケットプレイスに既に数十万社の販売事業者がいることと、充実した商品数が強み。複数の販売事業者とやりとりすることなく値段の比較ができ、請求書も一本化できる」とアピールする。その一方で、先行する企業が強みとして持つ「電話やFAXでの受付が可能」という点については、対応する予定はないという。

工場、医療機関、教育機関などで利用する商品も取り扱う

担当者に聞く「背景」と「強み」

――Amazon Businessの日本展開がこのタイミングになった理由はなんでしょうか。

米Amazon.com スティーブ・フレイザー バイスプレジデント:特に理由や背景があるわけではありません。ただ方針として「国際展開をしよう」ということは決めていましたので、まず米国で始めた後に「どこに展開していくか」がポイントとなっていました。ドイツ、英国、日本は海外において確立した事業を持っていたので、その3カ国がまず候補に上がりました。ですが、技術的な問題など、見極める時間が必要でした。

――米国でAmazon Businessがスタートしたのが2015年。見極める時間に2年ほどかかったということでしょうか?

フレイザー氏:そういうことではありません。展開する国を決めるのは簡単ですが、各国にどのような展開をするべきなのか、どうすればこの大きなプロジェクトを進化させることができるのか――と考えると難しい点があります。国の特性に合わせたカスタム化が必要ですし、優先度を考える必要があります。

 ただ、ドイツは16年12月、英国は17年4月、そして日本は9月にスタートできました。9カ月で3カ国に展開できたスピードについては、現状満足しています。

――国の特性に合わせた展開とは?

フレイザー氏:それぞれの国には、法や規制のほか、財務上の仕組みがあり、統制方法は各国で異なります。例えば、ドイツの支払い方法は英国や日本とは違います。これらを正しく地域に適したものにしないと、カスタマーによい体験を提供するのは難しい。日本でスタートするにあたっても、日本の企業の声を聞きました。

――日本では、「月末締め」などの請求方法が提供されます。

フレイザー氏:請求書機能は他国でも提供していますが、月末締め(月初めから月末までの請求を一括で請求書に出力する機能)は世界で初めてですね。また、見積書をPDFにしてプリントアウトする機能も日本で初めてです。

アマゾンジャパンの星健一ディレクター:紙にハンコを押して承認をもらうという仕組みは、日本に特有の文化ですからね。また、日本は特別に個人事業主の数が多い国なので、個人事業主も登録できるようにしています。Amazonによる審査を通れば個人事業主でもAmazon Businessを利用できます。

――法人向け購買ビジネスの日本市場での可能性をどのように考えているでしょうか。

星氏:ビジネス利用の需要はどの国でも基本的に同じだと考えています。「品質の高いものをより安く買いたい」というニーズは、世界でも日本でも全く同じです。日本市場において異なる点があるとすると、事業規模や事業所の大きさでしょうか。日本企業は、「在庫を少なくしたい」「在庫を早く回転させたい」という需要が、他国と比べて非常に大きいと考えます。そうした点でも、当日便、お急ぎ便、日時指定便などさまざまな配送を指定できるのはメリットになると思います。

――配送特典は他国でも展開していますか?

星氏:他国においても展開していますが、最低購入価格を設定しています。日本では数百円のペンを1本買うだけでも、お急ぎ便を無償で利用できます。

――これまでのビジネスに加え、さらに法人向けも開始するとなると、配送が気になります。Amazonでは6月下旬から7月にかけて、「荷物が指定日に届かない」といったトラブルがありました。Amazon Businessの開始に伴い、配送トラブルが発生する可能性はありますか? 法人向けは別の配送網などを用意するのでしょうか。

星氏:個人向けと法人向けで違う配送ロジックを組んではいません。配送業者のパートナーシップのもとに配送を行います。トラブルや個人向け配送への影響はないと考えています。

――Amazon Businessが先行して始まった国において、法人向け利用者の購買行動に何か変化はあったでしょうか。

フレイザー氏:お客さまから聞くのは、「計画購買以外で必要なものがあった際(都度購買)において、迅速に手に入る上に1カ所で購入できることがうれしい」という声ですね。

星氏:計画購買に関しては、決まったサプライヤーから年間で大量購入する企業が多いですよね。それ以外の都度購買については、そのたびにサプライヤーを検討する手間がある。Amazon Businessではその手間を省けます。国内では、まずそこのニーズを満たしていけると考えています。

――国内の販売事業者にとって、Amazon Businessに加わるメリットはなんでしょうか。

星氏:販売事業者にとっては、商圏が広がり、日本全国の人々にアプローチできるようになります。さらに、海外のお客さまを獲得できる可能性もあります。

 ただ、それはこれまでも展開していた「Amazonマーケットプレイス」でも同じです。Amazon Businessはさらに、「アマゾンは個人向けだから、うちの商品を出しても売れないだろうな」と考えていた販売事業者にとって新たな販路になりえます。B2Bの商品を扱っていて、なおかつオンラインで販売を行っていない事業者にとっては、非常に意味のあるプラットフォームになるのではないでしょうか。Amazon側でも、そうした事業者さんに「Amazon Businessで商品を出品しませんか」と提案をしていく予定です。

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