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» 2018年03月05日 10時00分 公開

頑張る力は「言葉」から生まれる 前代未聞の眼鏡を作り上げたジンズ・井上氏の熱意の理由【前編】

アイウェアブランド「JINS」を展開するジンズは2015年、それまでになかったコンセプトの眼鏡を発売し、世間を驚かせた。体の状態を知ることができるセンシングアイウェア「JINS MEME(ジンズ ・ミーム)」だ。困難を伴うプロジェクトを育ててきた井上一鷹氏を突き動かしている信念とは何だろうか。その思いに迫った。

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 自分はなぜ頑張っているのか――。そんな疑問を持ったことがあるビジネスパーソンは多いのではないだろうか。壁にぶつかって悩んでしまう前に、できることがある。今まさに、大きなプロジェクトに挑んでいるジンズの井上一鷹氏は、自らの行動によって、その問いに対する答えを示してきた。

 アイウェアブランド「JINS」を展開する株式会社ジンズは2015年、装着した人の心と体の状態を計測できるセンシングアイウェア「JINS MEME」を発売。新作メガネにして、ウェアラブル端末である。搭載したセンサーによって、まばたきや視線移動、体の傾きなどを手軽に計測できるアイテムとして注目されている。井上氏は、JINS MEMEグループ マネジャーとして、このプロジェクトを担当。外部のメーカーや研究機関などを巻き込んで、サービス開発や運用を進めている。

photo ジンズが2015年に発売したセンシングアイウェア「JINS MEME」

 これまでにない技術を使って、たくさんの人の協力を得ながら商品やサービスをつくり上げていく。それは私たちが想像する以上に大変なことだろう。しかし、井上氏は前向きに行動し、思いを形にしてきた。その原動力とは何だろうか。井上氏の挑戦に迫った。

“ひそかに”任されたプロジェクト

photo ジンズ JINS MEMEグループ マネジャーの井上一鷹氏

 大学時代は化学を専攻し、経営コンサルティング会社に就職した井上氏。しかし、そこで物足りなさを感じ、もっと世の中にイノベーションを起こすようなキャリアを追い求めた先にあったのが、ジンズだった。

 コンサル時代の経験を振り返ると、総合電機メーカーなどの経営支援に入っても、「自分の能力もあるとは思いますが、外部からの働きかけによって、イノベーションを起こすのは非常に難しいと感じていました」という。井上氏によると、イノベーションに必要なのは、マーケティングセンス、技術の目利き力、投資判断力。ジンズは、創業者の田中仁社長を中心に、チームとしてその要素を備えていると感じた。

 製造小売業(SPA)というビジネスモデルも魅力の1つ。メーカーでありながら店舗という顧客接点の場があるため、常に新しいニーズや環境変化を把握し、スピード感を持って対応できる。IT企業への転職を勧める声もあったが、「手で触れるプロダクト」に魅力を感じ、眼鏡と向き合う道を選んだ。

 実は、一度は他の会社への入社が決まりかけていたという。転職エージェントにそれを伝えたところ、「良い会社があるから」とジンズを紹介された。「せっかくなので」と田中社長に会いに行ったことがきっかけで、急きょ入社が決まった。

 12年1月の入社後は、社長室への配属を経て商品企画へ。「気が利かないから異動になったんですよ」と笑う。年間1600種類ほど作っていた商品の企画や展開店舗などを考案するマーチャンダイジングを担当した。一方、その裏では、社長からひそかにある特命プロジェクトを任される。それが、後の「JINS MEME」だった。

「ミツバチのような仕事」で人を巻き込む

 実は、JINS MEMEのプロジェクトは、14年に発表するまで社内でも伏せられていた。当初の開発チームは井上氏を含めて2人だけ。「脳トレ」で有名な東北大学の川島隆太教授の協力のもと、特許出願だけ済んでいた状態だった。

 その特許技術は、左右のレンズの間の眉間部分と鼻パッドに取り付けたセンサーで、視線移動とまばたきの数をリアルタイムで測定するというもの。つるの先の部分にもセンサーがあり、頭部の動きを計測して体の傾きや姿勢などを把握する。朝から晩まで常に着用している眼鏡だからこそ、自分自身を知るツールにもなる、という考え方だ。それをヘルスケアの分野で活用する構想から、開発が始まった。

photo 左右のレンズの間と、つるの先にセンサーがある
photo 3つのセンサーで視線移動やまばたきをリアルタイムで測定する
photo つるの先のセンサーで体の傾きや姿勢などを把握

 しかし、技術だけでは商品にはならない。眼鏡としての商品デザインや、データを処理して分析するためのシステム、サービスとしての展開方法など、段階を経て形にしていく必要がある。そのために必要なのは、社外の知見や技術。さまざまな企業や大学などを回り、協業を呼び掛けた。

 とはいえ、その時点で示すことができるのは、技術と展望だけだ。具体的な商品やサービスは、これからつくり上げていく。そのようなプロジェクトに乗るのは、他の企業にとってもリスクになりかねない。それでも協力してもらうためには、将来のニーズやそれに対応する技術に関する「知的好奇心」を刺激することが必要だった。

 「『面白いからやるか』と、理屈ではない投資をしてくれる人を巻き込むには、『この船に乗った方がいい』と思ってもらわなければいけません。高齢化によってヘルスケアの必要性が高まっていたり、働き方改革で生産性向上が課題になったりと、この技術を活用できる世界は必ず来ます。その意志を示し、伝えてきました」。さまざまな業界や企業と協業するために、常に手探りで勉強しながら開発を進めてきた。

 どんな業種でも、企業の永続的な成長のために新規事業の育成が求められているが、その芽が枯渇している状況も多い。井上氏の提案は、新規事業の芽を育てるきっかけになる。賛同する声は徐々に増えていった。

 さまざまな分野の技術や知見を持つ人たちに、新しい事業の種をまく。それを繰り返す井上氏の仕事ぶりを、花から花へ、蜜を取りながら受粉を手助けする「ミツバチのような仕事」と称する人もいる。「『わらしべ長者』と言われたこともあります」と井上氏。大手メーカーからアプリ開発企業、大学まで、技術と展望を示しながら、たくさんの人を巻き込んでいった。

「頑張る理由」への気付き

 とはいえ、新しいコンセプトの商品やサービスの開発を、外部と協力しながら成し遂げるのは簡単ではなかったはずだ。井上氏の原動力とは何だろうか。それを読み解くキーワードは「ライフワーク」だ。

 JINS MEMEの技術は、今では集中度を測り、働き方改革に有効なアイテムとしての活用が先行している。だが、もともとは「認知症対策」への活用を想定して開発された。目や体の動きの乱れをデータ化することで、認知症になる前に対策できないか、という狙いだ。現在も、ヘルスケア分野で活用を目指すという大きな目標がある。

 このような背景と、井上氏自身の経験が重なった。高校時代、母方の祖父母が2人とも認知症になり、介護に苦労する母親の姿を目の当たりにした。自分が認知症になったら死なせてくれ、とまで言う母親を前に、「そんな思いをさせたくない」と、認知症の研究医を目指そうとしたこともあった。結局、医学部には進学しなかったが、認知症対策への思いは心の中に持ち続けていた。

 そして、ジンズ入社後、再び認知症対策と向き合うことになる。認知症の症状改善の研究で知られる川島教授と仕事をするチャンスも得た。「認知症対策をライフワークにしようと決めました。今はまだ難しいですが、少しずつ進めていけたら」。壁にぶつかってつらいときも、その思いがあれば「楽になる」という。周囲の人も応援してくれる。

 ドラマチックなエピソードだが、井上氏は「この話、後から整理したときにあらためて気づいたんですよ」と率直に明かす。なぜなら、「頑張っている理由」は後からでもつくることができる、それを示そうとしているからだ。

 「自分の仕事を人に語る機会を作ることで、自分がなぜ頑張っているのか、気付くことができます。意志が強くなるのです。まだうまくいっていなくても、なぜやっているのか、はっきりさせるきっかけになります。取材を受けたり講演したりする機会が増えて気付きましたが、人に語って言葉にすると“踏ん張り方”が変わってくるのです」

 頑張る理由を明確にしながら、JINS MEMEを形作ってきた井上氏。技術の活用方法を探りながら進めてきたプロジェクトは、意外な広がりを見せる。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2018年3月18日