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時差Bizが「満員電車ゼロ」の“最適解”といえる理由杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2018年07月20日 07時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

時差Bizの問題点とは

 統計情報があまりアテにならないと知ったところで、時差Bizについて問題点と利点を挙げよう。時差Bizの最大の問題点は「東京都だけが取り組む施策ではない」ことだ。なぜなら、東京の満員電車に乗る人は都民だけではないから。都心へ向かう電車は、東京都に入る段階ですでに満員だ。都民にとっては迷惑な話であり、なぜ都民にピークシフトという負担を強いるのか納得できない。

 ピークシフトすべきは神奈川、千葉、埼玉など、他県から東京へ向かう通勤通学者だ。だから東京都は首都圏各県に働きかけて、首都圏の取り組みにしないと意味がない。「東京都の時差Biz」というイメージを作ってしまったら、本来、ピークシフトすべき他県の人にメッセージが届かない。

 そうではなくて、時差Bizは「都民の皆さんは早起きして通勤通学を済ませましょう。他県から大勢の通勤通学客が押し寄せる前に」というメッセージだろうか。だったらはじめからそう言わないと伝わらない。

photo 時差Bizには表彰制度がある。しかし対象は企業。個人のピークシフトを応援するキャンペーンではなく、都内の企業のピークシフトを促すキャンペーンらしい(出典:東京都「時差Biz公式サイト」)

 もう一つの問題点は「乗客にとってキャンペーンのメリットが分かりにくい」。早朝時間帯利用者にポイントを付与、抽選でプレゼント、という施策を実施する鉄道会社があるけれども、忙しくて余裕のない通勤者たちにとって、ポイント獲得の手続きが面倒だ。抽選なんてアテにならないプレゼントで釣られる人もどれだけいるか。

 こういう「釣り」は「実物」が最も効く。会員制スーパー「コストコ」では、ビジネス会員向けに早朝オープンし、パンとコーヒーを振る舞った時期がある。私も早朝から出掛けておいしくいただいた。これに倣って、都心側のターミナル駅で先着順におにぎりやパンを配ったらどうか。早朝出勤で困るのは、飲食店が開いてないことだ。低コストで済ませるなら、付近の飲食店とタイアップして、ランチメニューの広告付きで配布してもいい。私ならティッシュペーパーでもありがたい。なんだ。時差Bizで粗品キャンペーンを展開すれば、広告収入もありそうではないか。

 早朝に通勤電車を増発するという施策は厄介だ。増発電車に乗ってもらえば、早朝通勤は快適だというメッセージは伝わる。しかし、せっかく早朝通勤を続けようとしても、キャンペーン期間が終わったら、同じ時間に列車は走っていない。これは困る。通年で増発しなければ意味がない。

photo 時差BiZに参加する鉄道事業者一覧。各社の施策を紹介している(出典:東京都「時差Biz公式サイト」)

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