確かに、暴行事件はあった。でも、組織人なんだから協会幹部と連携して事態を丸く収めるのが筋ではないか。協会の対応にも問題があったのは事実だが、なんの説明もなく唐突に、内閣府に告発状というのは、余計な混乱を引き起こしてファンを悲しませている――。最もらしい理屈をこねているが、その主張をよくよくかみ砕いて見ると、なんのことはない、親方が相撲協会にちゃんと「ほう・れん・そう」をしていないことが、大問題だと糾弾しているのだ。
チーム大好き、集団主義の日本人らしいと言えばらしいが、集団リンチやその被害を闇に葬り去ろうとすることよりも、「組織のルールに従わない」ことのほうがはるかに問題で、はるかに罪深いとするのは、いささか度が過ぎている。
なぜここまで日本人は「組織」をあがめたてるのか。そして、なぜ「組織に背を向ける者」に嫌悪感を抱くのだろうか。個人的には、我々日本人が祖先から脈々と受け継いできた「事大主義」が影響しているのではないかと考えている。
事大主義とは、「自分の信念をもたず、支配的な勢力や風潮に迎合して自己保身を図ろうとする態度・考え方」だ。オレはそんなズルい人間じゃないぞと憤慨する方も多いだろうが、これは「少しも珍しくない日本人的現象」だと指摘した人がいる。
日本と日本人について考察し続けてきた評論家・山本七平だ。
著書『一下級将校の見た帝国陸軍』(文春文庫)の中に、「ある役付きの位置」に置かれると一瞬にして態度を変えるという、事大主義に頭のてっぺんからつま先まで毒された人が登場する。
学生として徴兵検査を受けにきた会場で、山本は声高で威圧的な軍隊調で学生たちに怒鳴り散らす1人の男が目についた。どこかで見たことがあると思ったら、彼はいつも家に御用聞きとして訪れる商店の配達人だった。愛想笑いを浮かべ、もみ手で誰に対しても偉ぶることのないその御用聞きは、山本の視線に気付き怒声をあげた。
「ボサッとつっ立っておらんで、手続きせんかーッ」
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