いずれにせよ、この報道からほどなく、安室さんは個人事務所「stella 88」を設立して「育ての親」から袂(たもと)を分かったのは事実である。この独立騒動の本質は、大人になった安室さんが、小学生から当たり前のように受けてきた罪悪感マネジメントの支配から逃れるための闘争だったのではないか、と個人的には思っている。
ただ、ここで断っておくが、筆者は日本のマネジメントスタイルを全否定しているわけではない。国によってさまざまなカルチャーがあるように、組織やチームが大好きなこの国においては、個人が努力と才能でグイグイのし上がるより、事務所に属して、事務所のノウハウやコネでスターが生み出される談合スタイルのほうが、芸能界というムラのガバナンスが維持できて、みんなハッピーというプラス面も多くあるからだ。
ただ、その平和の陰で定期的に、今回のようにアイドルが自ら命を絶つ悲劇が繰り返されているのも事実だ。まるで生贄(いけにえ)のように犠牲者が後を立たないのは、この世界では常識となっている罪悪感マネジメントにも、その原因の一端があるのではないかということを指摘したいのだ。
18歳で飛び降り自殺をした岡田有希子さん、24歳で首つり自殺をした「貧乏アイドル」の上原美優さんなど、これまで多くの未来のある若い女性が自ら命を絶った。そのたびに、恋愛の問題などさまざまな理由がささやかれてきた。もちろん、人間が自ら死を選ぶわけだから、そこには第三者が計り知れないようなさまざまな事情が複雑に絡み合っていることは間違いない。
そのようないろいろな悩みを抱えた彼女たちをダメ押しのように追いつめたのが、罪悪感マネジメントによってつくり出された、逃げ場のないワークスタイルではないかと考えているのだ。実際、亡くなった上原さんの手帳には、「このままのスタイルで仕事して先行きどうなるか」というメモがあったそうだ。
また、日本と同じく、大手事務所が絶大な権力を握り、アイドルを養成する先行投資型で知られる韓国のショービジネス界でも、定期的に女優やアイドルが自ら命を絶っている。その原因とされるのが、「奴隷契約」だ。これは超ブラック的な条件のうえ、逃げられないような法外な長期契約のことで、時には「枕営業」などの性接待を強いることもあるという。こんな無茶苦茶な話がまかり通るのも全ては、事務所がこれまでその女優たちに先行投資をしていたからだ。要するに、奴隷契約は日本の罪悪感マネジメントを、韓国流にアレンジした商習慣なのだ。
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