社内でもよくシャドーピッチングをしているというマーティンさんは現在も仕事の傍ら、コーチとして野球を続けている。指導しているチームは、スイスの首都・ベルンの地元チームと、スイスの23歳以下の代表チームだ。
「毎日の勤務時間は午前8時〜午後6時くらい。仕事が終わると車で移動し、午後6時半ごろからトレーニングしています。火曜・木曜・金曜は地元チーム、水曜は代表チームを指導しています」
科学者として働きながらも、野球を教える時間を確保しているマーティンさん。筆者が「日本では長時間働くことが当たり前になっている。一部の企業では残業の削減や副業の解禁が始まっているが、依然として残業が多い会社もある」「残業を苦にして転職する人も多い」――などと伝えると、こんな見解を話してくれた。
「労働時間と成果に相関関係はありません。私は長く働くこと自体を否定するつもりはありませんし、大学院で博士号を取った時はずっと勉強していました。でもその経験からは、長時間働いたからといって、相応の成果が出るとは限らないことに気付きました。健康的かつ効率よく働けるのは8〜10時間だと感じています」
「(残業を苦にして仕事を辞める人がほぼいない)スイスやドイツでは、次のステップに進みたいために、転職する人が多い。1つの会社で20〜40年働き続ける人もいますが、勤務先でのキャリアプランが描けなくなった時に転職するケースが多いですね」
ただ、退勤後に取り組んでいる野球コーチが副業だという認識はなく「お金のためではなく、野球から学んだ人生観を若い世代に伝えるためにやっています」とのことだ。
このように、CUBEで働く2人のスタッフからは、無駄を削って結果を出すことを重視し、労働時間の長短にとらわれず、空いた時間は自分を高める作業や趣味に充てる――というスイス式の働き方が、仕事と私生活の充実につながっていることが伝わってきた。
佐藤さんが指摘するように、残業が長引く日本の労働環境の背景には、納期などの約束事を重んじる責任感があることは確かだ。そのため、日本の働き方の全てが誤りだとは言えないだろう。
だが、日本企業がこうしたスイス式の価値観や働き方を取り入れることで、労働環境はよりよくなり、社員のモチベーションと生産性はさらに上がるのではないだろうか。
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