ECから撤退して店舗を強化するドンキの狙い小売・流通アナリストの視点(2/4 ページ)

» 2018年11月20日 06時30分 公開
[中井彰人ITmedia]

総合スーパーが廃れたワケ

 1990年代、総合スーパーが曲がり角を迎えたころ、こうした業態の企業は全国に数多く存在していた。2000年の主要な総合スーパーのランキングと、2018年のランキングを比較すれば、今世紀に入って急速に再編が進んだことがよく分かる。

 かつて、小売業ランキングの上位を占めていた総合スーパーのマーケットは、さまざまな専門店チェーンによって再分割され、今では、コンビニエンスストア、食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなど商品ジャンルごとの業態が取って代わった。総合スーパーが提供していたワンストップショッピングという利便性も、今ではさまざまな組み合せの複合商業施設が十分に果たしており、総合スーパーの存在意義は失われたと言っていいだろう(図表1、2)

図1 総合スーパーの売り上げランキング(00年と18年を比較) 図1 総合スーパーの売り上げランキング(00年と18年を比較)

 こうした盛衰の背景となったのは、モータリゼーションという環境変化だった。今世紀に入り、運転免許を保有する女性が増え、かつ、地方で軽自動車を中心としたセカンドカーが普及したことで、女性消費者の行動範囲が格段に広くなった。

 免許保有者の大半が男性だった時代、家族の中で運転者のいない平日は、徒歩や自転車で行ける近場のスーパーで日々の買物を済ませ、土日に父親の運転する車で総合スーパーに行ってまとめ買いする、というのが主流だった。しかし、機動力を得た女性消費者はいつでも自分の好きな店に行けるようになったため、行動の制約上、仕方なく行っていた店を選択から外した。そこで外されたのが、近くにあるが、品ぞろえや鮮度の悪い食品スーパー、つまり「何でもあるが、欲しいものはない」という総合スーパーだった。

図2 小売業の売り上げランキング(00年と18年を比較) 図2 小売業の売り上げランキング(00年と18年を比較)

 代って選ばれたのは、平日は「食品スーパー+ドラッグストア+100円ショップ+α」のような小型モールや、休日はさまざまな専門店が多数集まった大型ショッピングモールのような、女性目線を意識して店づくりをしている専門店の集合体だった。

 メジャープレイヤーでないため、あまり表面には出なかったが、この時期、街の食品スーパーも急速な淘汰(とうた)が進んだ。これ以前の食品スーパーは、団地や住宅地の周辺にさえあれば、店が狭くても、汚くても、鮮度が多少悪くても、そして駐車場がなくても、他に選択肢のない消費者は行かざるを得なかった。

 しかし、女性が機動力を持って以降、食品スーパーは、幹線道路沿いで、クルマで行きやすく、大きな駐車場があり、清潔で広い売場に鮮度の良い商品を、美しく陳列していることが、最低条件となった(一部の大都市部は除く)。イメージで言えば、かつて行動範囲が半径500メートルだったのが、機動力を得て半径2キロメートルとなれば、行ける範囲は16倍になる。近いだけが取柄だった店が生き残れるはずはない。

 こうした新しい基準を満たさない企業は、今世紀に入り急速に淘汰された。あまり知られていないが、自分たちが子どものころとは食品スーパーの場所が変わっているのは、こうした経緯による(詳細ご興味ある方は、過去の拙著「業態盛衰の歴史が示唆するこれからの小売の方向性」をご参照ください)。

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