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ジオンの国力増強策から我々が学ぶこと元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(1/6 ページ)

» 2018年12月19日 06時30分 公開
[鈴木卓実ITmedia]

 前回に続き、ガンダムの世界に登場するジオン公国とその系譜を題材に「国力」について考察する。まずは、ジオンの資源から見ていこう。

 以前の記事でシャアが妹のセイラに贈った金塊について述べた。実はそれ以外の場面でも、ジオンとその後継組織は金塊と縁が深い。

「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(出典:公式サイト) 「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(出典:公式サイト

 「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」(第7話蒼く輝く炎で)ではMA(モビルアーマー)ヴァル・ヴァロの購入代金として、「機動戦士ガンダムZZ」(第3話エンドラの戦士)ではコロニーへの進入を許可するための賄賂として、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」では小惑星基地アクシズの購入代金および地球連邦政府高官への賄賂として、金塊を用いている。預金といった金融機関を通じて送金する場合、足がつく恐れがあるため金塊を利用したのだろう。

 脱税や違法取引に使われる支払い手段には流行り廃りがあり、かつての日本では、無記名国債などを利用した事例があった。

 現代社会では、洋の東西を問わず、違法取引に利用されるのは高額紙幣が一般的であり、ケネス・S・ロゴフ著「現金の呪い」(日経BP社、2017年)等でも指摘されている。ガンダムの世界を見ると、地球連邦政府との関係において、相手方の紙幣を大量に用意する場合は足が付きかねない。ジオン側の紙幣を用いても、地球連邦政府の勢力圏内で使用した場合は、やはり足が付きかねず、受け取ってもらえない可能性が高い。そうした事情から金塊を用いたのだろうし、何より「有事の金(きん)」と言われるほど、混乱期には金が好まれるのだ。

 その金塊はどこから来たのか。恐らくジオン公国とその後継組織は、アクシズ、ア・バオア・クー、ソロモンといった資源惑星から金を採掘したのだろう。また、ジオン公国があるサイド3は地球や他のコロニーよりも、火星と木星の間にある小惑星帯のアステロイド・ベルトに近く、資源衛星に近いという地の利があった。

 一年戦争に敗れたジオン軍の残存部隊はミネバ・ザビを盟主と仰ぎ、アステロイド・ベルトにあるアクシズを中心に再軍備を進めている。その中には金を含有している小惑星もあったと考えられる。

アクシズ購入代金と賄賂として金塊がネオ・ジオンから連邦政府高官に渡された=映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』より アクシズ購入代金と賄賂として金塊がネオ・ジオンから連邦政府高官に渡された=映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』より

 距離の問題から、アステロイド・ベルトの管理は地球連邦政府の公認の下、サイド3が担っていたと考えられる。採掘された鉱物資源が流通も含めて管理されると、実際の採掘量の把握は外部からは困難である。

 現実世界ではたびたびダイヤモンドの価格操作が話題になる。ダイヤモンドはシンジケート(共同販売会社)による独占的な採掘と流通管理ができるからこそ、価格維持が可能になる。採掘量が増えたとしても、倉庫に保管したり、あるいは、海に投棄したりするなどして、流通量(供給量)をコントロールできるからだ。

 ギレンは地球連邦政府との開戦に備えて、アステロイド・ベルトから採掘した鉱物資源の量を偽り、戦略物資として備蓄していたのではないか。地球連邦政府から派遣された監査官等は金塊を賄賂に沈黙しただろうし、受け取りを拒否する高潔な人材は、アステロイド・ベルトからの帰還途中、スペース・デブリなどのせいで“不慮の”事故死を遂げたのかもしれない。

 モビルスーツ(MS)製造に必要な鉱物資源のめどがたったからこそ、圧倒的な人口の差がある地球連邦に対して戦端を開くことができたのである。「機動戦士ガンダム」第39話に搭乗するシャリア・ブルが、かつて核融合に必要なヘリウム3を木星から運搬する船団を率いていたことからも資源確保に積極的だったことがうかがえる。

 もっとも、短期決戦の想定が崩れた後は、一部の資源は地球上の勢力圏から採掘することになった。マクベはジオン本国に送った資源で10年戦えると豪語したが、「機動戦士ガンダム」(第18話 灼熱のアッザム・リーダー)の戦場が第102採掘基地だったことを踏まえると、その鉱業技術からあながち負け惜しみとは言えない。こうした資源が後のMS製造・継戦能力維持に使われた可能性がある。

 地球連邦は本拠地をジャブローの穴ぐらに作り、ジオンは「機動戦士ガンダム第08MS小隊」や「機動戦士ガンダム0083 STARDAST MEMORY」で山を採掘して基地化していたことを考えると、宇宙世紀は鉱業技術が発達した世界と言える。月面開発を皮切りに、スペースコロニーを建造するための資源獲得の必要から技術が進歩したのだろう。

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