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改正入管法で浮き彫りに 日本語学校の“知られざる”役割「労働者」の前に「留学生」を(2/6 ページ)

» 2019年01月30日 06時30分 公開
[橋本愛喜ITmedia]

日本語学校の「本当」の役割

 2020年を目途に政府が目指す「留学生30万人計画」により、留学生はここ数年、増加の一途をたどっている。独立行政法人日本学生支援機構の調査によると、17年5月現在、前年より2万7755人増の26万7042人。目標の30万人までは時間の問題だ。

 これに伴って増加したのが、日本語学校だ。過去5年で200校以上も増えた同学校は、18年4月時点で約680校にものぼる。

 先述した通り、日本語学校は、日本に関する知識のない外国人が、正しい言葉や文化、習慣などをイチから学べる教育機関だ。各学校に在籍している日本語教師は、大学での日本語教育専攻修了者、420時間の養成講座修了者、または日本語教師検定合格者という「日本語・日本文化教育関連のプロ」であり、決して日本語さえ話せれば担えるような職業ではない。

 日本語教師育成のための授業では、日本語を話している際の舌の動きから、外国人に日本語を教えるための独特な文法、留学している外国人の心理や地方の方言の特徴まで、実に幅広い分野を徹底して学ぶ。

 一方、今回の法改正後に「外国人労働者」としてやって来る外国人は、こうした国内の日本語学校に一定期間在籍することなく、いきなり労働現場に就くことになる。しかし、来日した外国人の生活がどんなものなのかを知りつくす日本語教育関係者は、たとえ自国でどんなに高度な教育を受けていたとしても、来日後に一定期間、日本語学校のような場に通う時間を持つべきだ、と口をそろえる。

 その理由は3つある。

1.日本語に多い独特な表現

 言葉も文化も違う国で生活するには、当然、語学力が最低限必要だ。ましてやそれが労働目的となると、現場の労働者同士のミスコミュニケーションが、業務進行の妨げになるだけでなく、時と場合によっては命の危険にもつながりかねないゆえ、より確実な意思伝達能力が必要不可欠となる。

 特に日本には、言葉を濁したり、顔色を見たりといった「特有の表現方法」が多くあり、これら文化的表現は、多くの日本人と触れ合うことでしか身に付かない。自国の日本語教師数人から学ぶ「ビザ取得のための閉じた日本語」だけでは不十分なのだ。

 日常生活における近隣住人とのトラブル回避はもちろんだが、彼らが労働者としてベストなパフォーマンスを発揮するためにも、事前に一定期間「学生」として徹底的に日本の文化に浸かり、「生きた日本語」を習得するべきなのだ。

2.知っておくべき「他外国人の話す日本語」

 同じ職場に集まるのは、1カ国の外国人だけとは限らない。企業によっては、日本語を共通言語として、多国籍の労働者と話すことになる。日本語の分かる日本人には、彼らの間違いやアクセントを何となく頭で修正して理解することができるが、日本語能力の低い外国人同士の場合だと、意思疎通が難しくなる恐れがあるのだ。

 こうした外国人労働者同士のコミュニケーショントラブルを未然に防ぐには、多くの外国人が集う日本語学校で、各国の日本語アクセントに耳を慣らしておくことは大切だ。

3.日本社会の厳しい規律の体得

 日本語学校は「不法労働者量産の巣」といった誤解を受けることがあるのだが、一方で驚くほど出席や遅刻に厳しい日本語学校は多い。

 教師自身が授業に15分以上遅刻してくるような学校も多い海外とは違い、日本では学生が5分でも遅刻すれば、出席簿に「斜線」が入る。学生が無断で欠席した場合は、担当教師が毎度本人に電話をし、休んだ理由を聞いたり、時には担任の教員が学生の自宅を訪問したりすることもあるという。出席率が80%を切れば、定例会議で名前が挙がり、学校全体で情報をシェア。徹底的にマークするような厳しい学校もある。

 これほどまでに彼らを厳しく管理するのは、学校自身も入管の厳しい管理下にあるという裏事情はさておき、まずは外国人に「学生生活」を送らせ、日本の日常に慣れる猶予を与えることは、その後、彼らとともに働く日本人にとっても大変重要なことだと考えているからだ。

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