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同性愛公表のパナソニック取締役ベイツ氏「LGBTへの差別は日本経済の損失」若者のロールモデルになりたい(1/2 ページ)

» 2018年12月23日 07時00分 公開
[猪瀬聖ITmedia]

 2018年6月にパナソニック初の外国人取締役に就任した米国人のローレンス・ベイツ氏(60歳)が、同性愛者であることをカミングアウト(公表)している自身の経験について、就任後初めて取材に応じた。在日約30年で、日本企業や日本社会にも精通しているベイツ氏は、グローバルな経済競争の中で日本企業が生き残っていくためにもLGBTなど性的マイノリティーへの差別や偏見の撤廃は重要だと強調。自らが率先して、「日本の若者のロールモデルになりたい」と語った。

phot ローレンス・ベイツ パナソニック取締役 執行役員、GC、CRO、CCO(兼)リスク・ガバナンス本部長。1958年米国コネチカット州生まれ。80年イエール大学卒業後、ハーバードロースクールにて法学博士号。87年ニューヨーク州弁護士登録。東京大学法学部で客員教授を経て米GE入社。98年GEでゼネラル・カウンセル(日本統括担当)。2013年に在日米国商工会議所で会頭。14年LIXILグループで執行役専務、CLO。18年4月にパナソニック執行役員に就任。

企業にとって「人材の損失」に

――パナソニックの取締役に就任した経緯を教えてください。

 小さいころからアジアに興味があり、ハーバード大学ロースクールで法律を学んだ後、米法律事務所の中国オフィスで働き始めました。ところが働き始めて間もない1989年、天安門事件が起きてオフィスは閉鎖。それを機に来日し、東京大学客員教授などを経て、米ゼネラル・エレクトリック(GE)グループで働き始めました。GEには22年間いましたが、勤務地は基本的に日本でした。2014年に、LIXILに転職し、チーフ・リーガル・オフィサー(CLO)を務め、さらに18年4月、パナソニックにゼネラルカウンシル(GC、法務担当役員)として入社しました。6月の株主総会でパナソニック初の外国人取締役に就任したのです。

 新聞などで報じられているように、パナソニックとパナソニックの米子会社は18年前半、米司法省と米証券取引委員会から、外国公務員への贈賄を禁止・処罰する海外腐敗行為防止法違反に問われ、多額の制裁金を支払うことに同意しました。この教訓が示すように、日本企業がより積極的にグローバル展開をしようとすると、経営陣の中に海外、とくに米国の法律に詳しい人物が必要になってきます。米国の弁護士資格を持つ私に白羽の矢が立ったのも、こうした背景があると思います。

 パナソニック入りを決めたのは、仕事のやりがいが一番でしたが、性的マイノリティーを含めダイバーシティーを尊重する会社であることも、大きなポイントでした。パナソニックは16年、行動指針を改定し、性別や年齢、人種などと同じく、性的マイノリティーに対する差別的言動や差別的行為を禁止し、ダイバーシティー重視を明確に打ち出しました。もちろん、行動指針が変わっただけで何かがすぐに大きく変わるということはありませんが、ダイバーシティーの尊重という観点では、パナソニックは日本企業の中では先進的な企業だと思います。

――企業にとってダイバーシティーや性的マイノリティー社員の人権を尊重することはなぜ重要なのでしょうか。

 一つはコンプライアンスの問題です。欧米では性的マイノリティーへの差別を法律で明確に禁じている国が多く、職場で差別的な取り扱いがあれば即座に法的な問題に発展します。日本企業も、欧米で事業をする場合はそうした法律を守らなければコンプライアンス違反として訴えられます。日本ではLGBTへの差別を明確に禁じた法律はありませんが、企業が差別禁止をポリシーとして明文化しておくことは非常に重要です。

 もう一つは、企業自身の競争力のためです。少子高齢化が猛スピードで進む日本では、労働力不足が大きな問題となっています。企業が優秀な労働力を確保するためには、女性や障害者、性的マイノリティーなど多様な人たちが気持ちよく安心して働ける職場環境を作ることが大切です。

 性的マイノリティーについていえば、自分がLGBTであることを隠して働いている人は大勢います。彼ら彼女らは、自分がLGBTであることを知られたらどうしようと常におびえながら働いています。知られたくないから、同僚と家族の話もできない、個人的な話をあれこれ聞かれるのが嫌だから、一緒に飲みにもいけない。そんなふうにおびえながら働いていれば当然、仕事の生産性は上がりません。もっと働きやすい職場を求めて転職したり、自分で会社を始めたりする人もいます。企業にとっては人材の損失になります。

 逆に、性的マイノリティーの権利や立場を尊重する職場であれば、カミングアウトする人も増えるかもしれませんし、余計な心配をすることなく仕事に集中することができ、生産性も上がります。そのためにも、行動指針を作って差別禁止を徹底することは効果的だと思いますし、そうした指針があれば、若い人たちも「この会社なら入っても大丈夫」と思うでしょう。

phot 左手前は筆者
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