――ベイツさんご自身のことについてお聞かせください。
私自身は、中国で知り合ったパートナーと31年間一緒に暮らしています。08年に米カリフォルニア州で同性婚が認められたときに同州で結婚式を挙げました。現在は、もうすぐ8歳になる息子と5歳の娘がいます。子育ては結構なエネルギーを使うので、毎日ヘトヘトです(笑)。
カミングアウトしたのはGEで働いていたときです。パートナーのために健康保険のことについて会社に相談したのがきっかけでした。パナソニックでは、自分からゲイであることを積極的に言いふらすことはありませんが、いつも一緒に仕事をしている人たちは私がゲイであることはみな知っています。誰かから聞かれれば、パートナーのことも、子どもたちのことも話しますし、隠していることは何一つありません。
私はゲイとして日本の若者たちのロールモデルになりたいと常々思っています。数年前、ゲイであることを友人にばらされた大学生が自殺するという非常に痛ましい事件が日本でありました。この事件を知ったとき、ロールモデルの存在が必要だと改めて思いました。
LGBTの人たちの中には同じような悩みを抱えている人がたくさんいます。悩んでいるとき、前向きに生きるゲイのロールモデルを見れば、気持ちが楽になるかもしれませんし、カミングアウトを迷っている人もカミングアウトしようと考えるかもしれません。
ロールモデルといっても何か特別なことをするわけではなく、いつも自然体で自分らしくいることが、結果的によいロールモデルになると考えています。自分らしく振る舞うことで、他のLGBTの人たちを勇気付けられればいいなと思います。
――日本社会は欧米に比べて性的マイノリティーへの偏見が根強いといわれています。長年、日本に住んでいてどう感じますか。
米国でも性的マイノリティーに関する世論や制度が大きく変わったのはつい最近です。例えば、08年にカリフォルニア州で結婚したと言いましたが、当時は連邦レベルでは同性婚が認められていなかったので、米国籍でない私のパートナーは、ビザの取得などさまざまな面で不便なことがありました。そうした差別が解消されたのは、15年に連邦最高裁が同性婚を認めてからです。
私が育った1960年代、70年代は性的マイノリティーに対するひどいいじめが横行していました。LGBTという言葉もなかった。しかし、性的マイノリティーに対する差別の問題がだんだんメディアで報じられるようになり、裁判も起きて、政治家も少しずつ議論し始めました。その議論の輪がだんだん大きくなり、社会が大きく変わり始めたのです。
米国で性的マイノリティーに対する差別がひどかったのは、同性愛を認めないキリスト教の影響もあると思います。日本にはそうした宗教的な背景はないので、かつての米国のようなひどい差別はありません。
ただ、やはり日本はOECDやG7諸国の中で比較すると、性的マイノリティー問題への取り組みは遅れていると感じています。一番の問題は、欧米の多くの国では認められている同性婚が認められていないことです。
婚姻関係が認められていないため、例えば、私の2人の子どもの親権は現在、私のパートナーにあり、私にはありません。今現在、それで何か問題が生じているということはありませんが、子どもが万が一病気で入院したりしたときに、家族以外は面会ができないなどの問題が起きる可能性があり、とても心配です。
また、配偶者ビザも日本ではとれません。私は日本の永住権を持っているので、本来なら私のパートナーも配偶者として永住権がもらえるはずなのに、日本の法律ではもらえない。従って、私のパートナーは定期的にビザを更新しなければなりません。そのたびに、何か問題が起きたらどうしようと不安になります。
私たちはまだ恵まれているほうですが、私の知り合いには、ビザの問題などでパートナーと別れざるを得なくなったり、一緒に海外に移住してしまったりした人が結構います。
――それこそ、優秀な外国人材が喉から手が出るほど欲しい日本にとって、貴重な外国人材の流出ですね。
その通りだと思います。私がかつて会頭を務めていた在日米国商工会議所(ACCJ)が今年9月、在日英国商工会議所など4カ国の在日商工会議所と共同で、LGBTカップルに婚姻の権利を認めることを趣旨とした提言書を発表しました。婚姻の権利の容認は日本の経済成長のためにも大切だと、提言書は記しています。その他、日本には、私もメンバーになっていますが、LLAN(LGBTとアライ=支援者のための法律家ネットワーク)といった組織も、LGBTの権利向上のために活動しています。
最近、東京都渋谷区や兵庫県宝塚市など、同性カップルを婚姻に準ずる関係として証明する同性パートナーシップ制度を導入する自治体が全国的に増えています。これ自体はよい流れだと思いますが、中央集権の日本では、自治体の条例にどれだけ法的効力があるのかはっきりしません。やはり国の法律が変わらないと、現状を大きく変えるのは難しいのかなと感じています。
そのためにも、まず、ビジネス界や法曹界、自治体などさまざまなところでLGBTに関する議論が盛り上がり、LGBTに対する正しい認識を多くの人が共有することが大切だと考えています。私自身もLGBTの一人として、パナソニックでの職務とは直接関係ありませんが、こうした活動にこれからも積極的にかかわっていきたいと思っています。
猪瀬聖(いのせ ひじり)
慶應義塾大学卒。米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。日経では、食の安全、暮らし、働き方、ライフスタイル、米国の社会問題を中心に幅広く取材。現在は、主に食の安全やライフスタイル、米国の社会問題などを取材し、雑誌などに連載。また、日本人の働き方の再構築をテーマに若手経営者への取材を続け、日経新聞電子版などに連載している。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)。日本ソムリエ協会認定シニアワインエキスパート。
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