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僕の足を引っ張らない社会を作る――ホリエモンが演劇をアップデートする理由『クリスマスキャロル』再演の真意(1/2 ページ)

» 2018年12月15日 06時30分 公開
[今野大一ITmedia]

 12月9日にグロービス経営大学院東京校にて「G1カレッジ」が開かれ、ホリエモンこと堀江貴文氏が全国から選抜された約240人の大学生らに講演した。「創造的破壊から生まれる日本の未来 〜100の行動2.0〜」と題された基調講演では、堀江氏が主演を務め、現在公演中のミュージカル『クリスマスキャロル』に取り組んでいる理由と、これからの働き方について、大学生らにメッセージを送った。堀江氏の仕事に対する考え方に迫る。

phot ほりえ・たかふみ。SNS media & consultingファウンダー。現在は宇宙ロケットの開発や、スマホアプリ「TERIYAKI」「755」「マンガ新聞」のプロデュース、また予防医療普及協会としても活動する。近著に『多動力』『健康の結論』など。1972年、福岡県生まれ(写真は一般社団法人G1提供)

「守銭奴」の主人公演じる真意

 今日はAI時代の働き方、生き方について話をしたいと思います。初めにちょうど今僕が取り組んでいる『クリスマスキャロル』というミュージカルのお話から始めたいと思います。このミュージカルの原作は1800年代初頭の小説である『クリスマスキャロル』で、チャールズ・ディケンズという作家が書いたものです。この人は、クリスマスを家族や友人と祝うという習慣を作った人です。それまでは、クリスマスの日にツリーを飾り、豪華な料理を作ってプレゼント交換をする習慣はなかったといわれているのです。

 1800年代初頭は英国で産業革命が起こり貧富の差が急拡大し、お金持ちへの嫉妬も膨らんでいた時期なんですよね。この『クリスマスキャロル』もそういう物語です。スクルージさんという大富豪のおじいちゃんがいて、クリスマス気分のときに彼のもとに4人の精霊が現れ、こんなことを言われます。「お前は守銭奴でお金を稼ぎすぎだ。それなのに寄付もしないし、クリスマスの祝い事にもお金を使わない。そんなことではお前は呪い殺されて、死者の世界で永遠の苦しみを味わうだろう」。それで改心して善良なおじいちゃんになるという話なんです。まあ、その話の主人公を僕がやるんですけどね(笑)。

 今回はただミュージカルをやるだけではなくて、和牛のフルコースを出すことにしました。僕は日本の和牛を世界に広げる「和牛マフィア」という活動をプロデュースしているのですが、このミュージカルのアリーナ席では、普通のお店なら3万円くらいはするフルコースのディナーを4万円で出しているのです。

 これは「AI時代の働き方」という話に一見関係なさそうなのですが、実は関係があるのです。実は今回のミュージカルは、演劇の楽しみ方をアップデートするという試みなのです。これまで演劇は座って2〜3時間くらい非常に苦しいところでじっとしていないといけませんでした。飲食はもちろん、声を出すことも、椅子を倒すこともできません。背伸びをしたら後ろの人に怒られます。だから僕は演劇を見るのは好きなのですが、この環境が本当にイヤだったんですよね。だから飲食をしながらお酒も飲めるショーをやることにしました。

 これは新しい取り組みに思われるかもしれませんが、実は「昔に戻る」といった方が近いんですよ。歌舞伎を見たことがある方はいますか? 実は歌舞伎って、飲食OKなんです。幕の内弁当というのは、(芝居において張られる)幕の内側で食べるから「幕の内弁当」と呼ばれているんですよ。

 シェークスピアの時代、1600年ころのイギリスでは庶民がアリーナ席に立って演劇を見ていました。当時はまだ今のようなラガービールがなかったので、シードルとかエールを飲んで酔いながら芝居を見ます。もしつまらなければやじを飛ばすのも当たり前。貴族もテラス席でディナーを楽しみながら見ていたのが演劇の本来の姿なのです。

 それなのに日本では、誰が言い出したのか分からないけど、何となくじっと座って見なきゃいけないことになってしまっている。これもある意味では、いろんなところで起きている現象なのかなと思います。演劇をやっている人たちもなぜか「自分たちの芝居は集中して見てほしい」と思っている。だから食事の音がイヤだとか食器の音が気になるという理由で、飲食NG、私語もNG、椅子倒すのもNG、背伸びもNG……になっている。でも3時間も椅子に座っていたら当然腰も痛くなりますよね?

 でもそれは変だって言えないんですよ。この現象って、今の社会に何か似ていると思いません? ちょっとでも目立つことや人と違うことをしたら「何でお前はそんなことやっているんだよ?」といわれるのです。

「定年後リーマン」があふれる社会

 「あいつは社長なのに何でスーツを着ないんだ」。僕もよくそう言われました。これが「同調圧力」です。就職活動でも「スーツを着なさい」と言われますよね。

 飲食しながら芝居を見たって別にいいじゃないですか。演者はマイクを付けて大声を出したり歌を歌ったりしているんだから、声は十分に聞こえますよ。結婚式の余興だってご飯を食べたり喋ったりしながら楽しんでいるので同じことです。全部は聞いていないにしろ、だいたいの内容は皆聞いていますよね。僕は演劇もそれでいいと思うんですよ。

 「何でホリエモンは芝居なんてやってるんだ?」。きっとそう思われるでしょう。でも僕はAI時代の働き方や生き方が気になっていて、それが今の活動のテーマになっているのです。僕はいろいろな活動をしていますが、ただ手当たり次第に新しいことに取り組んでいるわけではないのです。近未来の働き方や生き方がどうなればいいかを考えた結果なのです。

 簡単にいうと近未来では、定年後のサラリーマンが社会にあふれるという現象が起きると僕は思っています。20世紀型の社会の生き方は、大学を出て就職をして家族を持つ。そして子どもを作り、子どもが巣立った後に定年を迎える。そうなると自分が所属するコミュニティーが会社と家族しかないのです。この生き方の弊害はどこにあるのでしょう? それは同世代としかつるまないことにあります。これは日本の教育制度の大きな問題点です。定年後にどうなるか? 確かに配偶者はいるのかもしれませんが、全体の3分の1は離婚をします。もし会社というコミュニティーがなくなったら、その人は孤独になる可能性がありますよね。人間は孤独になると認知症になりやすくなります。今の認知症社会という問題には、この「定年後の孤独」が大きく関与していると僕は思っています。

 「定年後のサラリーマン」は数年以内に大量発生すると僕は思っています。そういう人たちが増えると社会が不安定になります。社会が不安定化し、不幸な人が増えると、社会は目立つ人の足を引っ張るようになる。そうなると、僕も困ります。また、僕の足が引っ張られるかもしれないですから(笑)。

 冗談抜きにしても、今フランスで起きているような暴動が起きるかもしれません。それは怖いと思っています。だから今のうちに社会を安定化させるべく、定年後のサラリーマンが大量発生するという問題を解決したいと思っています。だから演劇をやっているのです。

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カラオケは世界に誇るべき「発明」 

 カラオケを歌ったことのない人はいないですよね。でも50年前は、カラオケはありませんでした。僕は、カラオケは日本が世界に誇るべき「発明」だと思っています。なぜかというと、音痴の人でもカラオケは歌えるからです。当たり前だと思うかもしれませんが、実はこれはとても大事なポイントなのです。

 カラオケが生まれる前は、歌を歌える人というのは限られていました。歌を歌うには3つの条件があったのです。楽器を演奏できること、音痴ではないこと、歌詞を覚えていること、この3つです。この3つをクリアしないと歌は歌えなかったのです。しかし、皆さんもご存じの通り、カラオケが全てを解決しましたよね。つまりカラオケは、誰でも歌を歌えるようにしたのです。

 定年後のサラリーマンにとって、カラオケは重要なコミュニケーションツールになっています。「歌が好きだ」というだけで、世代を超えて仲間になれるからです。僕は演劇にもこのことが当てはまると思っています。なぜか? 演劇をする上で難しいのは台本を覚えることです。これがとても難しいのです。台本を覚えていないと演技に集中できません。だから素人が演技をするには、カンペがあればいいんですよ。モニターにせりふが流れるようにする「デジタルカンペシステム」を作ればいいのです。これは、実は今のテクノロジーでも十分に可能なのです。でもなぜ誰もやっていないのでしょう?

 理由は役者さんたちのプライドが高いからです。演劇とは「せりふをきちんと覚えるものだ」と思い込んでいるからなのです。先に述べたように、劇場で飲食をするのと一緒ですよ。「せりふを頭にたたき込むのがプロの役者ってもんだろう」と彼らは言うのです。でもミュージシャンは今、ステージに立つときは、プロンプターを使っています。彼らはカンペを見て歌っているのです。どんなに素晴らしい歌手でも歌詞を忘れることがあります。でも僕は、客が不自然に思わなければ、何をやってもいいと思っています。近い将来、メガネやコンタクトレンズに歌詞が表示されるシステムができるかもしれません。でもそれだけで演劇はアップデートされるのではないでしょうか。

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