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【第1話】社長からの呼び出し、突然のリーダー拝命「働き方改革」プロジェクトリーダーを命ず(2/3 ページ)

» 2019年02月06日 06時40分 公開
[柳剛洋ITmedia]

突然のプロジェクトリーダー任命

 X製作所の小田信人社長は、アイデアマンとして有名だ。だが、社内では、「アイデアを思いつくこと」より「それを即実行しようとすること」で恐れられている。本人も「私の判断は英断ではないかもしれないが、果断ではある」とうそぶいているほどだ。

 「リスクを恐れて取り組まないのがリスク」「ビジネスとはリスクだらけ。恐れるのではなく理解し捉えよ」が信条で、社長就任以来、製品と代理店の大胆な絞り込み、組織改革や若手の登用などさまざまな施策を次々と断行、実際に成果に結び付け、「小田改革」と経済界で高い評価を受けている。

 経営企画部長・日野下吉郎は2年前に欧州の地域統括会社から呼び戻され、小田社長肝いりの人事で抜擢された。就職氷河期に苦労してX製作所に入社したこともあり、X製作所をそこそこ愛していると自負している。経営企画部長就任は重責感とワクワク感が半々といったところだ。社長に必死でついていくうちに、あっという間に2年が過ぎた。

 そして今日も、社長にランチに呼ばれていた。

小田: 日野下さん、先日の中期ビジョン検討ではよく頑張ってくれたね。メンバーたちもようやく経営企画部らしくなってきたんじゃないか。うちの数字の集計屋のままじゃ困るからね。

日野下: ありがとうございます。本人たちも手応えを感じています。

小田: ところで、半年前から始めた「働き方改革プロジェクト」の進ちょく状況はどうだ? 役員会で芝田さん(人事担当役員)や上地さん(IT担当役員)から報告はあるが、少し、現場任せすぎるんじゃないか? 人事は制度面の整備は他社に遜色ないところまでやってくれているが、運用の実態は残業報告をチェックして、各部門に「工夫して早く帰りましょう」って言っているだけにも見える。ITは「RPAを全部門で使ってみています」と鼻息が荒いが、実際のところ成果のほどはどうなんだ?

日野下: 残業は前期比で20%減っています。RPAの方は一応全部門で、いわゆるPoC(実証実験:Proof of Concept)に取り組んでいるはずです……。

小田: いやいや、そんなことを聞いているんじゃないんだよ! うちの「働き方改革」のゴールは、仕事のやり方を根本から見直して、3割、できれば5割の余力を生み出すことだったろう? 役員会でも討議したし、皆合意したはずだ。そのゴールに照らしての進ちょくを聞いているんだよ。

日野下: 申し訳ございません! このプロジェクトでは経営企画部は事務局でして……。

小田: ばかもの! さっきせっかく褒めたのに台無しじゃないか。君は本社の経営企画部長だ。全社のことをすべて自分ごととして考えて欲しい。それができると見込んで欧州から呼んだんだぞ。うちは古い。伝統を誇ることは悪いことではないが、革新があってこそ伝統は守れるんだ。組織や業務の至るところに今の時代にそぐわないやり方や意味のない様式美みたいなものがまん延している。一番恐ろしいのは皆がそれを当たり前だと思っていることだ。

 ある課長の業務の大半は「会議に出ること」らしい。それも順番に5分ずつ発表して、特に議論もない会議がほとんどだという。経理の若手は入金データのチェックと消し込み、事業部門への照会に1日の大半を費やしているという。一事が万事、こんなことは止めなくてはならない。

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