最近、欧米の企業が相次いで「アクティビティー・ベースド・ワーキング(ABW : Activity Based Working)」という勤務形態を導入し、注目を集めている。ABWとは簡単にいうと、仕事の内容に合わせて働く場所を選ぶ働き方だ。例えば、集中する作業を静かな部屋でしたり、打ち合わせをソファでしたりするなど、フレキシブルに場所を選んで働くことができるのがABWの特徴だ。
そのABWの創始者であるオランダのコンサルティング会社Veldhoen + Companyで、アジア地区統括マネジャーを務めているヨランダ・ミーハンさんに、日本企業が働き方を変えて生産性を高めるためのヒントを聞いた。
――欧米企業が取り入れている「ABW」とはどんなものなのでしょうか?
人の活動ベースで働き方を考えるところに特徴があり、生産性を最大化させるための「働き方戦略」の一つです。さまざまな活動に適した空間をオフィス内に複数設け、その活動ごとに空間を使い分けることで、各活動の生産性を上げるのです。
組織から与えられた場所と決められた時間の中で働くのではなく、社員一人一人が働く場所や時間の使い方、仕事の仕方を自ら考えながら働くことをABWは目指しています。
――社員が個々に机を持たない「フリーアドレス」にも似ていますね。ABWはフリーアドレスとはどんな違いがあるのですか?
フリーアドレスは、オフィスの中でどのデスクを選ぶかということに終始してしまいがちですが、ABWは具体的に人がどういう行動をしているのかをベースにして、働く場所やツールを決めていきます。ABWの要素には(1)「物理的な環境」、(2)IT環境などの「テクノロジー」、(3)社員の「行動」という3つの軸があります。
フリーアドレスはこの中の「物理的な環境」の側面しか見ていないのに対し、ABWは望ましい結果を出すために、ITなどのテクノロジーを使ったり、社員の行動を変えたりすることで、「いつでもどこでも」働けるように、働き方を変えるのが目的になっています。
また、フリーアドレスは、確かに執務をするデスクを選ぶことはできますが、基本的には同じデスクの上でほとんどの仕事をします。一方ABWは、個々の活動がベースになってくるので、一つのデスクに限らずさまざまな場所で働くことを選択できるのです。
集中したければ一人で集中できるスペースに移動することができますし、電話がしたければ電話ができる場所に移動もできます。よりクリエイティブな仕事をしたいときは、リラックスできる場所で働く方が、仕事は捗(はかど)りますよね。
――「いつでもどこでも」働けるというと、テレワークに近い感じがしますね。離れた場所にいても生産性を上げる働き方をするには何が必要なのでしょうか?
必要なのはマネジャーと部下の間の信頼関係です。管理職が「とりあえずオフィスにいて俺の前で働け」というスタイルを強要していては、効率的な働き方はできません。だから、「会社にいなくても部下は絶対に仕事をしているんだ」と信じられる関係性が必要なのです。上司と部下の信頼関係が構築できているという前提があれば、いつでもどこでも誰とでも働けるようになるのです。
もう一つ必要なのは、成果で仕事を評価する仕組みですね。オフィスで上司の目の前にいることを評価するのではなく、成果で評価をするマネジメントに変えることが必要です。そのためにはある程度、上司が部下に権限を移譲することが必要になってくるでしょう。
リーダーはよいチームを作り上げなければなりません。いつでもどこでも誰とでも働けるという信頼感をチーム内に醸成するためには、チーム内でイベントや交流会を実施する必要もあるでしょう。
――若手の社員が「この会社で働きたい」と思うような会社を作るために必要なのは、どんな要素なのでしょうか?
世界中のトレンドを見てきて、大きく3つあると感じています。1つ目は勤務時間の柔軟さです。何時にオフィスに来てもいいし、何時に帰ってもいいということは、働きやすい環境にとって必須です。2つ目はワークライフバランスですね。国を問わず、今の若い世代はワークライフバランスを非常に重視しています。
3つ目は、会社の文化への共感です。個人の成長をきちんとサポートできるかどうかは重要なのです。日本でも若い世代は、上下関係があまりなく、マネジャーともフラットに話せるような環境を重視し始めていますよね。会社をただの「働く場所」として見るのではなく、会社の文化や価値観に共感できるかどうかが、若い世代には響くのだと思います。企業はこうしたところからアプローチをする必要があるのではないでしょうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング