着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
6月6日、静岡県が「促進期成同盟会」入りを保留された日、静岡県中央新幹線対策本部はJR東海に対して「中央新幹線建設工事における大井川水系の水資源の確保及び水質の保全等に関する中間意見書」を提出した。JR東海と静岡県の論点を整理するという趣旨だ。その内容は全般的事項として3項目9事項、個別事項として4項目25事項に及ぶ。小見出しと一部要約は以下の通り。
全般的事項:
- リスク管理に関する基本的考え方
- 上限値毎秒3トンの概念や妥当性
- 上限値毎秒3トンを上回る場合の対処方針を検討する根拠と妥当性
- 上限値推定方法、施工管理方法について
- 上限値毎秒3トンの戻し方と実効性について
- 管理手法
- 河川の水量・水温・水質・掘削発生土の年間変化の可視化が必要
- 県民が工事のリスクと対策を容易に理解できるような説明が必要
- 推定データと確定していくデータの違い、不確実性の明示が必要
- 生物多様性の保存に関わる基本的考え方
- 希少種に限らず生態系の保全に必要な対策を講じる必要
- 不測の事態に対する事前の代償措置等、現実に即した自然環境の保全方策も必要
個別事項:
- 水量
- 全量の戻し方
- 突発湧水対応
- 中下流域の地下水への影響
- 減水量の計測
- 減水に伴う生態系への影響
- 水質
- 濁水等処理
- 水温管理
- モニタリング
- 発生土対策
- 発生土置き場の設計
- 土壌流出対策
- 監視体制の構築
- 環境保全
- 安全管理
- 代償措置
- 事前の代償措置
- 基金・ファンドの設立
- 今後の方向性
- 施工計画書、発生土置場の管理計画書、環境保全計画書を作成し、県民等が理解できるよう説明する必要
- 対話の結果を明文化した基本協定を締結する必要
これら一つ一つの項目について、JR東海と静岡県は解決する必要がある。素人考えだけど、予測値が正しいか否かは「やってみなければ分からない」であり、予測を超えた事態は「その都度対処する」でなければ物事は前進しないと思われる。それらの全てを明示しろとは難題だ。しかし、静岡県が納得しなければトンネルを掘る許可は出ない。
例えば、発生土置き場について、カラマツ林を一つ埋めつぶす規模という報道もある。それが事実ならば、生態系への影響は大きい。大きいことは分かるけれども、どうなるかは予測できない。鉄道屋には難しい課題だ。生物学者などの知見も必要になる。
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