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ジャニーさんは「敬語」を使わなかったのに、なぜ人材育成がうまかったのかスピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2019年07月16日 08時14分 公開
[窪田順生ITmedia]

「敬語」をむやみに信仰する組織

 なんて話を聞いても、「この高校はもともと強かった、敬語のあるなしは関係ない!」とか「部活動内の敬語を通じて礼儀を教えてあげることも大切だ」など、とにかく「敬語」に何かしらの効果があることに持っていきたい人が多いだろうが、残念ながらそのように「敬語」をむやみに信仰するような組織は、致命的な危機を引き起こすことも分かっている。

 航空業界のリスクマネジメントでよく使われる「権威勾配(けんいこうばい)」という言葉をご存じだろうか。これは、機長と副操縦士、機体を整備するエンジニアたちの間で、「権威」がどれだけかけ離れているかを示す。この「勾配」がきつすぎると、「危機」に直面をした際にチーム内で、「下」の者が、「上」に気をつかって率直な意見が言えずに事故を引き起こすとされる。要は、組織内で上下関係がきつすぎると、ロクなことになりませんよというわけだ。

 目上の人は敬えば敬うほどいいという日本人からすると、なかなか受け入れがたい話だが、実は世界の航空業界では40年以上前からこれは「常識」となっている。

 そのきっかけとなったのが、1977年、KLMオランダ航空機と米パンナム機が滑走路上で衝突した「テネリフェの悲劇」だ。霧で視界の悪い中で離陸しようとしていたKLM機で、機関長がまだ滑走路上にパンナム機がいるのではないかと忠告をしたが、機長は「大丈夫だ」とはねのけた。

 普通はそこでもっと強く危険を主張しなくてはいけないが、機関長はその言葉をグッと飲み込んだ。実はこの機長、KLMのスター的存在。機関長は大先輩に遠慮してしまったのである。その結果、KLM機とパンナム機は衝突。乗客乗員合わせて583人が死亡するという航空史上最悪の事故が起きたのである。

 と聞くと、何かに似ているなと思わないか。

 神戸製鋼のデータ不正や、東芝の不正会計、レオパレスの違法建築など、最近の企業不祥事の多くも「下」はおかしいと感じたが、「上」に遠慮して指摘できず、見て見ぬふりをするパターンが多い。飛行機のコクピット内に限らず、事故や不正を防げない組織というのは往々にして「権威勾配」がきついのである。つまり、近年の日本企業の不祥事が続発している背景に、KLM機のコクピットと全く同じ力学が働いている可能性が高いのだ。

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