クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

「超小型EV」でEVビジネスを変えるトヨタの奇策池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2019年10月30日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

EVマーケットの変化

 大衆車メーカーは困りつつも、魚の少ないことが分かっている日産と同じ池に新たに竿(さお)を立てることになる。しかしこれはかなり絶望的な椅子取りゲームだ。全固体電池が世に出てくる2025年くらいまでは、お客の予算より100万円高いクルマを、何とかして売るというビジネスにならざるを得ない。そして全固体電池が本当に全ての問題を解決してくれるのかも、その時になってみないと分からない。

 一方でテスラが発見した、「高くても構わない」というお客を以前から抱えているブランドにしてみれば、従来よりケタ違いに速いEVスーパースポーツを作れば一定数売れるのは明らかだ。

 すでにポルシェはタイカンを、ジャガーはI-PACEをデビューさせているし、フェラーリもアストンマーチンもロータスも、軒並み超高性能EVをリリースする。ランボルギーニはBEV(バッテリー電気自動車)は作らないそうだが、フォルクスワーゲングループの一員なので、ポルシェ・タイカンのコンポーネンツはいつでも使える。PHV(プラグインハイブリッド)の計画はすでに発表済みだ。

 もちろんすでに先行しているベンツ、BMW、アウディもラインアップを増やしてくるだろう。加えて、ポルシェやジャガーは、すでにそれぞれの伝統の乗り味をEVで再現するモデルを送り出し始めている。戦いは、自動車としてのブランドアイコンを持たない新参メーカーには、すでに太刀打ちできない領域に入っている。

 ということで、これからプレミアムEVマーケットは、大量のコンペティターが富裕層を奪い合うレッドオーシャンと化すことが見えてきている。

トヨタの奇策

 さてそうした中で、一体トヨタは何をしようというのか? そもそもEVの普及を阻んでいるのはバッテリー価格である。テスラは「高くても構わない」客を狙うことで、バッテリー価格の束縛を逃れた。トヨタは全く逆のアプローチを取った。

 「値段を下げられるようにバッテリーを小さくしよう」。いやいやそんなことをしたら航続距離が足りなくなる。だからみんな困っているのだ。「航続距離がいらないお客さんを選んで売ればいい」

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