つまるところ、残業は「カネ=残業代」ではなく、「命」とセットで考えるべき問題なのです。もっとも、残業代が支払われていないことは違法だし、大きな問題です。しかし、件の女性が精神障害で休業状態にあることからも分かる通り、「カネ」だけを払えば解決できる問題ではありません。
日本では、1970年代後半から、中小企業の管理職層で心筋梗塞発症が急増しました。理由は、「長時間労働」が当たり前になったからです。
第一次オイルショックで景気が冷え込み、その間、国の助成金で社員を解雇しなかった企業が、景気回復後に少ない人数で長時間働かせて生産性を向上させようとした。その結果、80年代に入ると、サラリーマンが突然、心筋梗塞・心不全、脳出血・くも膜下出血・脳梗塞などの疾患で命を失うという悲劇が多発するようになってしまいました。
いったい何人の人たちが、長時間労働で命を奪われていったか。いったいどれだけの人たちが、長時間労働が原因のうつ病になり、仕事ができない状態になってしまったか。
人はロボットではないのです。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)
新刊『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)が発売になりました!
失業、貧困、孤立――。新型コロナウイルスによって社会に出てきた問題は、日本社会にあった“ひずみ”が噴出したにすぎません。
この国の社会のベースは1970年代のまま。40年間で「家族のカタチ」「雇用のカタチ」「人口構成のカタチ」は大きく変化しているのに、それを無視した「昭和おじさん社会」が続いていることが、ひずみを生み続けています。
コロナ禍を経て、昭和モデルで動いてきた社会はどうなってしまうのか――。
「日経ビジネス電子版」の長期連載を大幅に加筆し、新書化しました。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング