クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新型アクア ヤリスじゃダメなのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)

» 2021年08月23日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 アクアはとにかく徹頭徹尾穏やかに仕立てられている。ヤリスのようなビビッド感はない代わりに落ち着いた挙動で、鷹揚(おうよう)なロールを伴う。乗り心地も柔らかい。

 直進安定性もいわゆる「矢のように」というより、無風感を伴う静かさがある。これは望外に良い。全体的にヤリスのようにシャキシャキしておらず、温めの温泉に浸って伸びをするような、癒やし感を感じる。人のだらしなさというか、ずぼらで怠惰な気分を、クルマが文句も言わずに受け止めてくれる感じがある。

 という流れの中で書くと少々嫌味に聞こえるかもしれないが、実に旧来のトヨタ車らしい。ヤリスが生まれ変わったトヨタの象徴だとすれば、アクアは新技術で全体を底上げしつつも、かつてのトヨタを良い意味で維持継承しているクルマだといえる。

 インタフェースもアプローチが違う。象徴的なのは、例えばパーキングブレーキ。ヤリスではコンベンショナルなレバー式を採用しているのに対して、アクアは二度踏みリリースのペダル式。シフトレバーもオーセンティックなロックボタン式ATセレクターのヤリスに対し、アクアはプリウスのようなトグル式電気セレクター。それぞれのインタフェースがクルマの性格をよく表していると思う。

パーキングブレーキは足踏み、シフトレバーも電気セレクターというアクア

 アクアは、そういうモノだという前提で見れば、安楽でありながら、全てが以前のレベルから見たら天国のようにレベルアップしている。シートも良くなったし、ハンドリングも穏やかながら正確だ。足踏み式パーキングが許せないような、運動体としての正しさを求める人にはヤリスを選んでもらい、もう少し気楽に付き合える普段使い感を優先する人にアクアということになるだろう。

 ということで、ヤリスとアクアは客層が違うと見るのが基本で、たぶんどっちでもイイやという人はあんまり多くないのではないかと思う。ただ、ヤリスよりアクアが明確に優れている点がひとつある。それは床板の振動だ。過去にGAプラットフォーム共通の弱点として書いてきた通り、トヨタの新世代プラットフォームはどれも床板の防音防振がいまひとつだった。かろうじてハリアーが、カーペットでの音の押さえ込みに成功していたくらいで、RAV4やカムリですら、物足りなさを感じた。もしかするとアクアはGAプラットフォーム全体の弱点克服の一歩目になるかもしれない。

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