岸田首相も同調した「自社株買い規制」、実現すれば明治時代に逆戻り?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2021年12月17日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 “株もたぬ首相”、岸田文雄氏による金融市場への締め付けがとどまるところをしらない。

 岸田氏は14日の衆議院予算委員会において、企業が実施する自社株買いの質疑応答の場面で「自社株買い規制」を「重要なポイント」としたうえでガイドラインの制定に言及した。

自社株買いに言及する岸田総理(衆議院インターネット審議中継 12月14日予算委員会より)

 答弁では、「少し慎重に考えないといけない」としつつも、自社株買い規制を重要視するという趣旨の発言により、日経平均株価は一時400円近く下落した。

 「新しい資本主義」を掲げる岸田氏の政策だが、閣僚の資産公開情報によれば岸田氏本人は株式を一切保有していない。そのためか、われわれ庶民にも裾野が広がってきたはずの資産運用に対して、岸田氏は新しい資本主義をタテに厳しい政策を連発している。

 「金融所得増税の次は自社株買い規制か」と市場関係者も落胆するが、自社株買い規制はわが国における現行の法整備と逆行するものだ。

明治時代は自社株買い禁止だった

 岸田氏に件の質問を投げかけた立憲民主党の落合貴之議員は、「(自社株買いも)キッパリと見直し、もしくは禁止まで」踏み込むべきであると熱弁したが、仮にこれが実現すれば日本の自社株買いをめぐる制度は明治時代にまで逆戻りする。

 かつての日本は、明治32年の商法制定後、長らく自社株買い(自己株式の取得)を原則禁止していた。その理屈は、2つに大別される。

 まずは、「自己株式が割安であるということを判断できる会社側が、自身の株式を買い入れることは公平ではない」とする理論だ。

 自社株買いに積極的なソフトバンクグループCEOの孫正義氏をはじめとして、自社株買いをする企業はよく「自社の株は安すぎる」などと表明することがある。自社株買い規制派からすれば、このようなアクションはインサイダー取引“的”であるとして、問題であるということになる。

ソフトバンクグループは11月8日の決算発表にて、1兆円規模の自社株買いを発表した

 しかし、自社株買いは一定の期間を定めて継続的に買い入れが行われるもので、実施の要項は事前に開示されるパターンがほとんどである。そのため、株式を保有していない投資家は企業に先回りして株式を購入する機会がある。したがって、株主平等などの基本原則に反するとまでは言い難い。

 次に、「会社の内部留保を賃上げや債務の返済に充てることなく自社の株式の購入に充てることは、財務的な基盤を圧迫するもので、従業員や債権者を軽視している」という理論だ。

 この点について、自社の経営や借入金の返済を危うくするレベルで自社株買いを行うことは、それは社長の“ムダ遣い”の問題であり、自社株買いそれ自体が問題ではないことを逆説的に証明している。仮にこの論理によれば、設備投資や賃上げなども「財務的な基盤を圧迫する」として一律禁止になりかねない。

 また、従業員還元についても自社の株については従業員持株会などで自社の株式を購入することは可能であるし、他社の株を保有している場合でも他社における自社株買いによって間接的に恩恵を受ける可能性もあるため、全く還元が行われないわけではない。そもそも、「自社株買いをするのであれば賃上げができない」という因果関係はない。賃上げと自社株買いは全く別の問題であることから、これもあたらないといえよう。

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