仲間の死、脳梗塞に倒れたドラマーの復活 ラウドネスが切り開くビジネスモデルの「誕生前夜」CDや配信の「次の一手」(2/8 ページ)

» 2022年05月22日 07時00分 公開
[柳澤昭浩ITmedia]
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自分のやりたい曲と、消費者が求めるヒット曲のズレ

――ラウドネスのマネジメント会社「カタナミュージック」を起業し9年がたちます。それ以前と変わったことはありますか?

 米国再進出に関しては、前マネジメントも関わっている部分もあったのですが、1980年代の米アトランティックのお偉方で、伝説のレコードマンでもある方との交渉は遅々として進まず、私も関与することになります。ただ、米国との折衝はなかなか困難で、結局は紆余曲折の上、実現しませんでした。

 先方に言われていたことは「ラウドネスは80年代の米国でのヒットがあり、種はまかれている。刈り取りをビジネスにつなげる時だ」ということです。

 この折衝の間にブッキングされていたのが豪華客船で往年のロックバンドがライブをする「Monster of Rock Cruise(モンスター・オブ・ロック・クルーズ)」でした。アーティストも80年代の名曲をプレーし、観客もそれを楽しむスタイルです。

 ラウドネスのメンバーは、「もう古い曲はやらなくてもいいんじゃない?」と感じていた頃なので、お客さんが望むものを演奏するという意識を強く持ったところは、変わったかもしれません。

 どのバンドもそうですけど、ある程度になると(観客が求めるヒット曲)「オールタイムベスト」をやらざるを得なくなります。どんなにヒットしたアーティストであっても、意に沿わない売れ方をした曲、やりたくない曲も実はあるわけです。でも、そういった葛藤を一周してしまえば、まさに「無敵」になりますね。

――確かに自分のやりたい曲やスタイルと、消費者や観客、周囲が求めるヒット作にはズレが出ますから、両立した活動を継続していくには、葛藤が伴いますよね。多くのアーティストが、そうなるものなんですか?

 マイケル・シェンカー(ドイツ生まれのハードロックギタリスト)も同じようなことを言っていました。「今は、ハッピーをみんなに分ける時だ」と。

 彼は10代でデビューし、さまざまな曲をプレーしてきて、一時はアリゾナに住んでアコースティックな音楽もやったりしていましたが、今は、(観客が求める)オールタイムベストのライブをやっています。

 アーティストにはありがちですが、こだわりを捨ててファンを楽しませるには、ファンがそれぞれの時代に楽しんだ曲が、今につながっていることを知ることが必要だと思います。

――モンスター・オブ・ロック・クルーズへの出演が、メンバーのちょっとした意識変革になったんですね。その体験がバンドを大きくしていったのかもしれません。

 人とのつながりの結果ですね。チャンスは目の前にあって、後はつかむかどうかだけです。先にもお話しした「種はまかれている」のは本当で、その後の2014年からの欧州フェスへの出演などは、それまで一緒に仕事をした人との関係が、いろいろとつながって実現しました。

 毎年、欧州のフェスで何万人もの前でプレーすると、メンバーの意識も変わりましたね。実は、ファンには人気があるけど、メンバーはやりたくない曲もあるんですが、そういう曲こそ、お客さんの反応が違います。以降、お客さんが望む曲はやるし、お客さんのためという視点で曲を書くようになりました。ファンのことを考えた姿勢でアルバム制作にも取り組んでいます。

 ただ、残念なことに2020年以降は、コロナ禍の影響で欧州のフェスにも参加できていない状況です。

ボーカルの二井原実

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