巧妙化する“スマホのみ販売拒否” 「完全分離」「上限2万円」は健全か?房野麻子の「モバイルチェック」(3/3 ページ)

» 2022年06月28日 10時18分 公開
[房野麻子ITmedia]
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「上限2万円」維持が適当との考えだが……

 この「上限2万円」規制は、高額な端末を0円で販売したり、さらに数万円のキャッシュバックも提供したりといった行きすぎた割引を根絶し、健全な競争を目指して導入されたものだ。昨年の報告書2021では、改正法施行前と比べて低・中価格帯の端末の販売割合が増加していることが確認され、上限2万円規制には一定の効果があるとされた。

 その後、違約金の撤廃などで、移行におけるハードルがほぼなくなった。ユーザーのキャリア乗り換えが活発化し、キャリア間のユーザー獲得競争が激しくなった。これによって獲得競争が進むことは想定された動きだが、獲得のために、表向きには通信契約と関係ない大幅な値引きをしつつも、実質的には通信契約を条件としているのが現状だ。「端末を安く売ることで回線契約を獲得する」という競争慣行から脱却できていないと指摘されている。

 しかし、法改正前の「一括0円◯万円キャッシュバック」の時代よりはマシ、という意見が有識者からはあった。上限2万円規制を導入したことにより、極端な状況に陥ることは一定程度抑制できているとの考えから、当面は現行の上限2万円規制を維持するという方向に議論は進んでいる。

 ただ、この状態が続くということは、いわゆる「転売ヤー」問題も続くということだ(記事参照)。販売代理店の端末単体販売の拒否は、転売ヤーに売りたくないというスタッフ心理の表れでもあるとして、キャリアに対策を徹底するよう要望しているが、どこまで効果があるかは不透明だ。海外との価格格差も広がっており、今のような円安が続くと、転売ヤーが完全にいなくなるとは考えにくい。

市場の歪みは続く

 MVNOの事業に対する影響も大きい。高価な端末を大幅に割り引いて販売するMNOに、MVNOは資金的に対抗できない。そして、さらに割引を得ようとMNPを繰り返す「MNPホッパー」にMVNOが踏み台にされてしまう状況が続くことになる。

 また、大幅な割引は人気のiPhoneで行われることがほとんどだ。特定メーカーの端末だけ大幅な割引が行われると、端末メーカー間の競争が歪められてしまうこと、さらに、新品の端末が中古端末より安く販売されると、中古端末市場に影響を与える可能性があること、なども指摘されている。

 モバイル市場の競争促進とユーザーの利益保護を図るためになされた法改正。確かに競争は促進されているが、大きな問題も出てきている。施行から3年が経ち、成果と課題を検証し、必要であれば見直しを行う必要があると、ある有識者は提言していたが、セット販売を復活させるなど、大胆な見直し、修正が必要かもしれない。

筆者プロフィール:房野麻子

大学卒業後、新卒で某百貨店に就職。その後、出版社に転職。男性向けモノ情報誌、携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年にフリーランスライターとして独立。モバイル業界を中心に取材し、『ITmedia Mobile』などのWeb媒体や雑誌で執筆活動を行っている。最近は『ITmedia ビジネスオンライン』にて人事・総務系ジャンルにもチャレンジしている。


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