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賃金アップが相次いでも、見捨てられる「中小企業と40歳以上」の悲哀河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)

» 2023年01月13日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

見捨てられる「中小企業と40歳以上」

 しかしながら、先に結論を申し上げれば、光が照らすのは「大企業」のみ。これまで以上に、大企業と中小企業の賃金格差が広がるのが2023年です。おまけに「大企業」の中でも、光の先には若い社員しかいません。企業は20代の有能人材には“高い賃金”を払う気満々ですが、“その他”は経営者の眼中にありません。

 20〜30代前半の賃金アップは「良い人材にわが社を選んでもらうため」のアピールになりますが、40歳以上の賃金の高さは“昭和”をイメージさせるネガティブ要因でしかない。「できればさっさとお引き取りください」が本音なのです。

 実際、その動きは出始めています。

 コロナ前の19年頃から一貫して増加していた希望退職が、昨年8月に4年ぶりにゼロとなり、「希望退職の波は過ぎた」ように見えていました。ところが、昨年11月、ワコールホールディングス、大王製紙など4社が希望退職募集の計画を発表。いずれもターゲットは、45歳以上の正社員です。

希望退職の対象となる中高年の社員(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

中小企業を取り巻く厳しい現実

 問題はそれだけではありません。

 実は件の記者会見で、経済同友会の櫻田謙悟代表幹事は、「インフレ率を超えていくようなベースアップ、賃上げが平均値において達成できるかというと数値的には簡単ではないと思う」と発言。日本商工会議所の小林健会頭に至っては、「小企業が大手企業などとの取引で製品やサービスの価格を適正に転嫁し、賃上げの原資を確保できるよう、経済3団体が共同で呼びかけていく」としました。

 つまり、メディアが「今年は賃上げの年だ!」「今年は賃金上がるぞ!」と騒いでいるのは、あくまでも大企業の正社員の賃金であり、働く人の約7割を占める中小企業の会社員の懐は寒いまま。

 むろん、中小企業の中には大企業より高い賃金を払っている企業もあります。

 しかし、櫻田代表幹事は昨年7月に大手メディアのインタビューで、「日本の賃金水準を引き上げるためには、中小企業が、合併や大企業の傘下に入るなどして中小企業を脱していくこと」が必要と指摘。さらに「賃上げできない利益率の低い企業の廃業を促すべき」との持論も述べていましたので、中小企業にとっては「賃上げ」どころの騒ぎではないかもしれません。

 中小企業の賃金に関する問題は、それだけではありません。

 長時間労働の抑制という観点から、2010年4月以降、大企業においては月60時間超の残業について、その割増率を50%に改定されていましたが、中小企業も同様に現行の25%から倍増されるのです。

 働く人には、過去3年間の賃金請求権が発生しますので、残業代などの不払い問題への注目が高まり、トラブルが増加するかもしれません。一方で、残業代込みの賃金として、月収が支払われていたケースは多いので、割増率増で企業が残業を禁止し、結果的に手取りが減ることになってしまうかもしれないのです。

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