小売業における取引企業間コラボレーション――Wal-Martの緻密な製販連携ITが変革する小売の姿(1/2 ページ)

Wal-Martが順調に業績を伸ばしている。食料品に限らず、玩具、マガジン、DVD/ビデオ分野でも米国内シェアで先頭に立っている。同社の戦略の基盤は取引先とのコラボレーションにある

» 2004年10月19日 12時03分 公開
[舟本秀男,舟本流通研究室]

 ダイエーが産業再生機構の力を借りて経営再建の道を歩むことが決まった。だが、一時は、民間企業数社が協力して同社の再建を支援する計画が持ち上がっていた。このときに、丸紅などとともに名乗りを上げたのが米Wal-Martだ。今回は実現しなかったが、西友への資本参加と併せて、同社が日本の小売市場に強い関心を示していることをうかがわせる動きだ。実際に、世界的な強さを誇るWal-Martを支えているものは何か。

 小売業界の動向を追う舟本流通研究室代表、舟本秀男氏に、Wal-Martの取り組みを含め、業界における企業間のコラボレーションについて寄稿してもらった。


「Wal-Martの製販連携」

 2004年1月決算においてWal-Martは前年比12%売り上げを伸ばし、2563.3億ドルとなり、引き続き順調に業績を伸ばしている。Wal-Martは食料品に限らず、玩具、マガジン、DVD/ビデオ分野でも米国内シェアで先頭に立ち、ドラッグ、衣料品、宝石、ガーデン用品においても首位の座をうかがっている。同社は一見巨大なパワーで他を圧しているかの印象を受けるが、戦略の基盤は取引先とのコラボレーションにある。

 創始者サム・ウォルトンの遺した10のルールの中には、「全てのパートナーにやる気を持ってもらいなさい」「出来るだけ多くの情報をパートナーと共有しなさい」といった取引先との協調関係が銘記されており、これが同社の企業文化として根付いている。

QR活動の積極推進

 Wal-Martは1985年カート・サーモン・アソシエイツが提唱したQR(クイック・リスポンス)活動を積極的に推進し、その推進母体である標準化機構VICS(非営利で業界間取引標準を推進する団体)の設立発起人にもなっている。

 販売情報の共有をはじめとした取引先との緊密な関係構築と業界標準手順の採用が、サプライチェーン全体最適のためには必要不可欠であるとWal-Martは認識している。

 1988年、ダラスで開催された第一回QR大会では、当時Wal-MartのCIO(情報システム最高責任者)ボビー・マーティンが取引企業間における「Win-Win」関係の重要性を力説し、熱っぽく、製造・物流・販売連携の重要さを語りかけていたのが今でも強く印象に残っている。

RetailLinkの始まり

 ボビー・マーティンの後、世界最大小売業のCIOに就任したのはランディ・モット(現デルコンピュータCIO)で、米国国防総省に次ぐ民間企業最大規模のデータウェアハウスを開発し、それを中核としてリテイルシステムの新たな時代を築いた。

 取引先がWal-Martのデータウェアハウスとネットワーク接続し、自社の商品情報を詳細に把握できる仕組みは「RetailLink」と呼ばれている。

 RetailLinkは当初Wal-Martおよびサムズクラブ店舗の売上、在庫、入出荷情報を店舗スタッフ、バイヤー、さらに取引先が容易に把握するために開発され、1991年にスタートを切った。

 基本はDSS(意思決定支援システム)であり、コラボレーションのツールである。取引先はあらゆる角度からWal-Martのデータベースに問い合わせし、データ分析することによって単品別推奨発注量を作成することができる。店舗で発生した数千万件のPOSデータを夜間処理し、翌日4時(米国セントラル・タイムゾーン)には検索可能となっている。

ナレッジコロニー

 1997年夏、Wal-Martは自社のデータウエァハウスを24テラバイトに拡大し、新たな情報活用の世界を拓いていった。すなわち、店舗別により詳細なデータ分析を行なう事によって、サム・ウォルトンの「One Store at a Time:何かを考えたり計画したりする時は、1店舗毎をその時点時点で捉えなければならない。」をシステム面から実現していったのである。

この新たな世界をランディー・モットは「ナレッジ・コロニー(知識の集落)」と名付け、Wal-Martの達成しようとする目標をこの言葉で表現している。

顧客の買い物行動、取引先からもたらされる膨大なデータの倉庫、及びこれらを分析し、情報へ、そしてナレッジへと進化させる分析ツール群。これらを統合したものがナレッジ・コロニーであり、Wal-Martのみで活用するシステム構想ではなく、あくまでも取引先とともに利用するコラボレーティブコマースのためのシステムである。

 「ナレッジ・コロニーがWal-Martにもたらす効果は、ストア・レイアウトの改革、プランニングの改善、取扱商品の構成に対する抜本的改革、販売促進の分野等、多くの分野に及ぶ事になろう。各分野からの詳細データから成るナレッジ・コロニーは、今迄我々が得られなかった多くの質問に対する答えを出してくれるであろう。」(ランディ・モット氏)

CFARの取り組み

 1996年10月21日号のニューズウィークは「倉庫から蜘蛛の巣に覆われた在庫を一層」と題して、Wal-Martと医薬品大手Warnerlambert(現Pfizerグループ)の間で開始された新たなコラボレーションの取り組みについて紹介した。

 CFARは、「Collaborative:製造と販売側の双方が共同し、Forecasting:販売予測、発注予測を共有しAnd Replenishment:商品補充」という意味合いである。

 過去のデータである販売実績と、現在のデータである在庫といった情報を、RetailLinkを通じて共有していたが、未来の情報である販売予測値については、それまで相互に開示することはなかった。

 したがって、取引先は納入見通しが立たず、不意な大量発注に対応すべく多めに生産し、多めに在庫することになる。このことがサプライチェーン上に大量の在庫を積むことになり、それが店頭での品切れにつながっていく。両者がイベントや販売予測などの情報を共有することにより、このような事態を避けようとする試みがCFARである。

 Wal-MartはCFARの成果を自社のみに止めることなく、実験を通じて得た経験や情報システムを公表して、流通業界全体に拡張していった。さらに、CFARはCPFRへと進化の道を歩む。このCPFRの詳細については次回に詳述する。

ベントンビルの激震、バイヤーは変わった

「アーカンソー州ベントンビルのWal-Mart本社で、今、静かなる革命が進行中である。この革命は、Wal-Martが取引先とビジネスをするやり方、さらには、店舗のマーチャンダイズの方法を根本的に変化させる可能性をもっている。」

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