小売業における取引企業間コラボレーション――Wal-Martの緻密な製販連携ITが変革する小売の姿(2/2 ページ)

» 2004年10月19日 12時03分 公開
[舟本秀男,舟本流通研究室]
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 1997年5月号のディスカウント・ストア・ニュースは、このような刺激的な表現で、Wal-Martとベンダー間のパートナー戦略の変化について報じている。これは、Wal-Martが1988年に構築したProcter&Gamble(P&G)との間の「戦略的製販連携」関係をさらに進展させ、取引先すべてに導入し、顧客満足のために一層の協力関係を結ぼうとするものである。

 1セント単位で取引の子細条件をつめていくやり方をシャープ・ペンシル(鉛筆の先を尖らせて)と言うらしいが、まさにWal-Martのバイヤーは取引先との条件交渉でこれを長年やってきたベテランである。彼らは、従来のやり方から、取引先とのパートナーシップによる新しい関係を築き上げ始めたのである。

サプライヤー・プロポーザルガイド

 Wal-Martは米国内で9万6000社もの企業を取引先と認定し、契約書を取り交わしている。同社と取引しようとする企業は米国内外で今も増加している。同社は、これらの企業に対して、取引する上でのガイドラインを発行している。

 ガイドラインを記述した冊子の冒頭、リー・スコット社長は「Wal-Martが成長していくにしたがい、取引企業との関係の重要度がますます高まっています。われわれが最終的な目標としているのは、顧客サービスに集中的に取り組み、取引先各社がわれわれに対するサービスを一層強化していただくことです。」と述べている。

 Wal-Martの取引先になった場合、システム面では全ての取引先がWal-Mart RetailLink Programに参加するよう要請される。Wal-Martが採用している標準EDI方式でデータ交換することも求めている。

 コラボレーションは、単なる情報共有や取引企業間の良好な関係構築に止まらず、消費者満足を実現するため、サプライチェーン全体のコスト削減、商品の開発、品揃えの最適化、棚管理の充実、等の業務を「協働」で行おうとするものである。

 小売業と取引先は双方とも、膨大なデータから何を見出し、どのように対応するか、分析力と俊敏な企業体質が求められている。


著者:舟本秀男氏(舟本流通研究室代表)

日本NCRにおける33年間の業務経験と、5年間の米国勤務経験を基盤に、流通業を革新するための最新の取り組みを研究することで知られる。平成11年に舟本流通研究室設立、米国ムーンウォッチメディア社と業務提携し『リテール・システムズ・アラート』日本語版を発行。日本経済新聞が主催するRetail Technology Summitの企画も手がける。

 経済産業省委託、2002年「SCM推進のための商慣行改善調査委員会」委員。総務省、2002年「国際競争力回復のための企業IT化戦略研究会」委員、ほか。著書『流通再生戦略(同友館)』『図解CPFRがわかる本(日本能率協会マネジメントセンター)』など。

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