マルエツの実証実験に見るRFIDの技術的課題特集:RFIDが変革する小売の姿(1/2 ページ)

小売業界は国際競争力を維持するために、技術を用いた業務革新を行う必要がある。ただし、期待されるRFID分野では、既に実験を行っている欧米の小売各社の取り組みに追いつくことが先決だ。今回はスーパーのマルエツの実証実験において、実用化に向け浮き彫りになった技術的な問題点について特集する。

» 2004年09月10日 23時24分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

 米Wal-Martが2005年1月から、主要サプライヤーに対して、納入するパレットレベルでICタグを付けるよう要請している。Wal-Martは今後、「業界を越え、またライバル企業同士でも協力してRFIDに取り組むべき」としており、欧米の小売業界はRFIDに関して1つの方向へと進もうとする動きが見られる。  

 一方、日本も国際競争力維持のために、政府が同技術を育てようと動いている。ICタグの単価を5円にすることを目指した響プロジェクトの展開がその1つ。さらに、経済産業省は、ICタグを利用するための無線周波数帯として有力視されているUHF帯のパイロットテストを、スーパーやアパレル、食品、家電業界などで委託プロジェクトとして実施している。 

 そのプロジェクトの1つがスーパーマーケットのマルエツだ。同社は2003年1月7日に、NTTデータと実証実験を行うことで合意、4月4日には取引先へ概略計画のプレゼンテーションを行い、約150社に参画を呼び掛けた。5月20日、マルエツRFIDプロジェクトが発足した。

 同社は、実際の店舗でUHF帯を使ったRFIDの実証実験を行った。UHF帯は、2.45GHと比べて電波の回り込みが大きく、低出力かつ通信距離も比較的長い、水分による影響が少ないといった特徴もあり、国際的に多くの国でICタグ用の無線周波数帯域に指定されている。

マルエツ潮見店に置かれたICタグ読み取り端末。

 この実証実験の推進主体はマルエツ。そのほか、全体事務局をNTTデータ、システム開発をNTT、タグや機器の提供を大日本印刷および丸紅などが務めた。「お客様のご不便の解消」を導入の目的として掲げ、レジ待ち時間の短縮、トレーサビリティの実現、クーポンやポイント制についてのCRM分析、購買決定要因の分析を行うために実験を行った。

 ちなみに、同社の調査によると、顧客が嫌がることは1位から順に、「レジで待たされる」「品質が悪い」「高い」「従業員の態度が悪い」「店内が汚い」となった。一方、顧客が要望することは、同様に、「安心・安全な商品を買いたい」「レジで待たずに買い物がしたい」「できるだけ安く買いたい」「気持ちよく買い物がしたい」「良い買い物がしたい」の順。こうした要望に応じることが、マルエツが実験を行う最終的な目的になる。

 実験は、13.56MHz帯を利用して常温物流センターおよび低温物流センターでの検証を行うフェーズIが2003年9月24および25日に、店舗での検証を行うフェーズIIが同10月6日から11月23日までの7週間にわたり実施された。さらに、2004年3月14日に行われたフェーズIIIでは、UHF帯の実証実験が行われた。

牛肉のパックの裏に張られたICタグ。

実証実験フェーズI

 フェーズIは、パレットにICタグを貼った状態での読み取り距離や、移動時の読み取り率の計測、タグ凍結時の読み取り距離の検証が目的。対象商品は、チルドや冷食などのクレート、ダンボール、発砲スチロール、木箱などとなった。

 実証実験の結果分かったことは、外箱の材質は読み取り距離には影響しないこと。温度変化もほとんど影響しない。また、中身にアルミを使用した商品は読み取り距離が落ちる。また、アルミ製保冷カバーを使用した場合は読み取りができなかった。ただし、アルミについては、金属対応タグを利用すれば距離は落ちるが読むことは可能だった。

一般消費者の声も〜フェーズII

 さらに、店舗での検証を行ったのがフェーズIIだ。マルエツ潮見店で90品目にICタグを貼付する実験が行われた。

 使用タグは、電磁誘導方式の13.56MHzタグ。「my-d」および「I-Code SLI」と呼ばれるもの。商品用が大中小合わせて4万200枚、物流ケース用が8000枚、モニタ用500枚を使った。RFIDを導入して、実際に店舗の作業はどのように効率化するのかがテーマになった。

 消費者の購入商品を一括して読み取って、精算できるかを調べる実験を行った結果、複数のICタグがバラバラの方向を向いている場合や、金属を含む商品では読み取り率が50%以下となることが分かった。これでは、タグが同一方向を向いている場合でしか利用できない。

 また、棚卸しの実験では、タグが商品の上部に貼付されているケースは結果は良好だったが、正面や側面に貼付されている場合は読み取り率があまりよくないことが判明した。

 フェーズIIでは、実際に潮見店でICタグのついた商品の情報検索用に4台のキオスク端末を設置した。100名のモニターを募り、商品についたICタグを読み取り、商品情報を提供するキオスク端末を利用した一般消費者からの声を集めた。

タグを読み取られたみかんの情報が端末に表示された。

 結果は、「便利だから全店に導入してほしい」「対象商品が少ない。生鮮品、日用品にもICタグをつけてほしい」「情報は頻繁に更新してほしい」「安心、安全に関する情報がほしい」となった。これにより、マルエツとしては導入のメリットと注意点などを確認することができた。

マルエツ潮見店で使われたICタグ。物流ケース用(上)と商品用

UHF帯を利用したフェーズIII

 さらに、2004年の3月14日、UHF帯を利用した検証を行った。基本特性の評価、一括検品、レジにおける商品の一括読み取り、そして、現状の作業効率との比較を行うことが目的となった。

 その結果、「水が使われていなければ100%読める」(導入を担当した高橋晋氏)ことが分かった。牛乳やウイスキーなど、水分を含むものは全般に正確に読み取れなかった。一方、読み取り距離は最大8メートルで、13.56MHz時と比較して大幅に伸びた。

 ただ、読み取り距離が8メートルに伸びると、今度は入荷検品作業や一括レジ精算時に、同じ製品を2度読んでしまうといった問題も出てくる。高橋氏はこうした点を挙げ、レジにおける商品の読み取り精算や入荷検品作業で実用化するには一層の努力が必要と話している。

「ハイテク部品を手で貼る」と皮肉る高橋氏。ICタグを自動で貼り付ける機械の開発もさらに発展してほしいと話す。

技術面での課題が浮き彫りに

 スーパーマーケットでは、鮮魚や肉などの生もののパックや、ビールやジュールの缶、アルミ製の袋に入ったお菓子など、ICタグの「天敵」が目白押しの状態。水分を含まず、素材的にも安定感があるダンボールほどには、ICタグの貼付は簡単ではない。

 難しいのは、「ダンボール製の商品はICタグで読み、生ものはバーコードで処理しましょう」というのでは、やはり困るということだ。過渡期に両者が並存することは必要な措置かもしれないが、最終的にはRFIDシステムとして、すべての商品が正確に読める日が来ることを前提に考えなくてはならない。

 マルエツの実証実験を含めて、ICタグに関するさまざまな声を集めると、技術面での課題が浮かび上がってくる。

 まず、何よりも、ICタグおよびリーダの品質面での向上だ。「全部一括で読めて、正確でなければ実用化は無理」という意見がある一方で、「バーコードが発展したように、誰かが技術的な問題を解決しながら使わなければいつまでたっても技術として成熟しない」といういわゆるニワトリとタマゴの問題(関連記事)もある。

 一方、コストも大きな問題。経済産業省がICタグの単価を5円まで下げることを目標に立ち上げた響プロジェクト(関連記事)には大きな期待がかかる。さらに、タグ・リーダの互換性も上げなくてはならない。

 現時点で言えることは、少なくともスーパーマーケットでの導入には非常に高いハードルがあるということ。「将来的には必ず標準になる技術」と言われるが、夢を語るにはまだ時期尚早のようだ。ただし、技術の革新が非常に早いのも事実。小売業者だけでなく、サプライヤー、政府がRFIDを革新技術と認識し、力を合わせることで壁を乗り越えられる。

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