オープンソースを基盤としたビジネスに欠かせない考え方とはInterview

オープンソースを基盤としたビジネスを続けていくなら、何らかのオープンソースの世界とのかかわりに対する指針が必要と、発表した声明の意図をVA Linuxの佐渡氏は説明する。

» 2005年02月22日 11時01分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 すでにお伝えしたとおり、VAリナックスはオープンソースソフトウェアおよびコミュニティーとかかわる上での、組織としての信条とコミュニティーへの約束を条文化した「VA Linux:オープンソースソフトウェアについての約束」を公開し、その声明の履行を宣言した。こうした声明文を発表した意図はどこにあるのか。VA Linux Systems Japanのマーケティング部長で、OSDNユニットのユニット長も務める佐渡秀治氏に話を聞いた。

佐渡氏 「われわれが当然と思って行ってきた行為を1つの文書にまとめただけ」と佐渡氏

ITmedia 今回の声明文の内容は企業としては実にユニークな内容に見えます。

佐渡 われわれとしては特に変わったことを書いているという意識はありません。VAリナックスを創業して以来、既に5年近くオープンソースと強く関わりを持ってビジネスを展開してきましたが、その中でわれわれが当然と思って行ってきた行為を1つの文書にまとめただけに過ぎません。

 確かに、会社としてオープンソース・ソフトウェアの開発プロジェクトに参加することを奨励し、場合によっては会社のリソースを使わせることを認めている点や、ビジネス上で開発されたコードの上流へのフィードバック奨励、著作権放棄も場合によって認めている点などについては、一企業が出す声明としては異例かもしれません。ですが、われわれはオープンソースの発展と共に歩んできた企業ですから特に異和感はありません。

ITmedia では何故、今回このような声明を発表したのでしょう?

佐渡 これまでが明確でなかったからです。弊社にはあまりにも自然にオープンソースに関わってきた人間が集まってきたことで、今回の声明にあるような行為はごく自然に社内に浸透していました。ですが、成長を続けるうちにVAリナックス自身があうんの呼吸ですべてが通じるという規模ではなくなってきました。それでいて今後もオープンソースを基盤としたビジネスを続けていくとなると、何らかのオープンソースの世界とのかかわりに対する指針も必要になってくるだろうと考えたのです。現在のところは特に大きな問題はありませんが、今のうちにコミュニティーとの1つの線を引いておこうということですね。線を引くというのはネガティブな印象を与えるかもしれませんが、企業としては知的財産や従業員の管理は極めて重要なことですから。ただし、この線はなるべくコミュニティーに不利益にならないようにしたいという想いを込めて今回の声明は作られています。

ITmedia Googleの従業員は勤務時間の10%を自分が関心を持つ個人的なプロジェクトに充てるよう奨励されています(関連記事参照)。VAリナックスがプライベートを含めてオープンソースプロジェクトに関わることを奨励するのはこれと同じことでしょうか。

佐渡 考え方は似ているかもしれません。しかし、われわれとしては勤務時間内は100%与えられたタスクをこなしてほしいと思っています。企業に属する以上、勤務時間中にはやはり業務に専念しなければいけません。ただ、業務に関連してプロジェクトに関わることもあるでしょうから、それは認めなければいけません。

 Googleとは少し違うかもしれませんが、例えば、最近発表した負荷分散ソフトウェアのVA Balanceは、VAリナックスの社員であるサイモン・ホーマンが率いているUltra Monkeyというオープンソースプロジェクトの成果を元に開発されています。これは、彼個人のプロジェクトが会社の製品にまで昇華したといえますし、ほかにもVA DirectoryはOpenLDAPに関わっていた樽石将人、VA Coreは何人も所属しているDebian開発者の活動があって初めて製品化が可能になったわけです。これはGoogle的な発想と言えばそうなのかもしれません。

 以前、VAリナックスを銀座の寿司屋に例えた記憶がありますが、これらのケースは、板前が仕入れた新しいネタで創作寿司を作り、それを常連客に試してもらって、評判が良かったのでメニューに加えることにした、ということですかね。VAリナックスには変わったネタを試したがる板前が多いので、メニューになるのはごく一部ですが。

ITmedia  今後の成長を考えると、そのような新しいネタを持ちこむオープンソース開発者をどんどん雇うということでしょうか。

佐渡 われわれが新しい仲間を迎えるのは基本的にはVAリナックスのビジネスに役に立つような技術力を持っているかどうかという一点です。オープンソースの開発者であるかどうかということは関係ありません。

 とにかく新しいことをどんどんやっていくというスタンスであれば、社員であるラスターマンの手によるEnlightenmentのデスクトップ製品を既に発表していることでしょう。ですが、実際にはそれは実行されていません。われわれが彼を雇っているのは純粋に開発力の高さという理由であって、実際に彼は非常に大きな戦力になっていますのでわれわれは非常に満足しています。

 VAリナックスの現在のエンタープライズへの方向性を考えると、現時点でのEnlightenmentのビジネスというのは今すぐに想像することが難しいと思います。しかし、われわれは彼のオープンソースプロジェクトでの行動や評判はよく理解していますし、Enlightenmentの技術がVAリナックスのビジネスに組み込まれる可能性は将来的にはあるでしょう。

 ということで、寿司屋の話に合わせれば、目先の新しさに釣られてネタを持ち込む人間というより、とにかく優秀な板前を揃えていくことを重視しているということですね。その優秀な板前ならその時々の状況に応じて新しいネタを持ち込むだろうということですね。

ITmedia  今回の声明はこれまでのVAリナックスの行動の追認のような印象を受けますが、具体的にはどのようなオープンソースコミュニティーとの関わり方をしてきたのでしょう?

佐渡 開発面で言えば、Linuxカーネルが有名ですが、先ほども話したようにOpenLDAP、Linux Virtual Serverといったところ、あとはDebianにも当然関わっています。個人的に関わっているものでは、先程のEnlightenmentもそうですし、NetBSDの開発者も在席しています。とにかく、開発への貢献を中心としたさまざまなオープンソースプロジェクトの開発に関わっています。

 また、OSDNジャパンを通じて、コミュニティーの支援も行っています。SourceForge.JPなんかはずばりそうですよね。

ITmedia ところで今回の声明では最近話題のソフトウェア特許については触れられていないようですが。

佐渡 確かに特許権についてはまだスタンスを明確にしていません。ただし、VAリナックスはRed Hatなどと同じようにソフトウェア特許がソフトウェアの革新の妨げになる可能性があることを憂慮しています。

 また、この問題についてはなるべくオープンソースコミュニティーと歩調を合わせたいとも考えています。ただ、LinuxWorldでHPのLinux担当バイスプレジデントであるマーチン・フィンクが話していたようなことも理解できますので、難しいところです。ソフトウェア特許に関しては、コミュニティー全体にとっての大きな課題であることには間違いありませんね。

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