ミュージックストアとフリーソフトウェアのいい関係

オンライン・ミュージックストア「Independent Music Online」はさまざまなFLOSSを用いてシステムを構築しているが、ユーザー、アーティストとの関わり方もほかに例を見ないものとなっている。

» 2005年08月22日 14時18分 公開
[Sean-"Nz17"-Robinson,japan.linux.com]

 オンライン・ミュージックストア「Independent Music Online」はさまざまなFLOSS(free, libre open source software)プロジェクトを盛んにプロモーションしており、サイト上にもMozilla Thunderbird、OpenOffice.org、jlGuiなどのバナーを掲載している。また、この音楽サービスは口だけでなく行動も起こしている。「Independent Music Online」のサイト自体が完全にFLOSSで運用されているのだ。

 Ind-Music.comサーバーはMandriva、Apache、PHPで構築されており、配布されている音楽はすべてOgg Vorbisというフリー(かつDRMフリー)のオーディオ・フォーマットを使用している(DRM:Digital Rights Management、デジタル著作権管理)。

 Ind-Music.comのオーナー兼CEOであるパトリック・ヘフナー(Patrick Hefner)氏によると、同社がOgg Vorbisを選んだのには幾つか理由がある。第一に、DRMはデジタル音楽に不当な制限を課している。第二に、Ogg Vorbisは類似フォーマットよりも優れた圧縮率と音質を実現しており、サイトの帯域幅を節約できる。第三に、Vorbisはオープンでフリーなフォーマットなので、ユーザーが音楽を好きなように利用できる。「Ogg Vorbisは他のMP3やWMAなどのフォーマットよりも品質的に優れています。しかし最も重要なのは、Ogg VorbisがLinuxでサポートされているという点です。MP3のRPMを探すこともできますし、必要であれば一からコンパイルすることもできますが、Ogg VorbisはLinuxのほとんどすべてのメディアプレイヤーでサポートされています。Linux用のWMAコーデックを探してあれこれ苦労する必要はありません」。

 もちろん、顧客の多くはLinuxを使用していない。「OggをWindows界に持ち込むのが難しいことは最初から分かっていました。 Windows界ではさまざまなメディアプレイヤーが使われているからです。ある人はWiMP(Windows Media Player)を使い、またある人はRealPlayerを使い、iTunesやWinamを使っている人もいます。われわれは幸い、これらすべてのプログラムに簡単にインストールできるコーデックを見つけました(WinampはOggをデフォルトでサポートしています)。そのため、Windowsへの対応も思ったほど難しくはありませんでした」。

 Ind-Music.comが焦点を当てているのは、RIAA(全米レコード境界)を後ろ盾にした有名ミュージシャンではなく、知名度の低いインディーズ系アーティストだ。これらのアーティストはいずれもInd-Music.comに略歴と自分のWebサイトへのリンクを掲載しており、Ind-Music.comの文章コンテンツの大部分は、こうしたミュージシャンへのインタビューと取材記事、さらには彼らの出演イベント情報である。

 ヘフナー氏はこう述べている。「われわれの存在意義は、インディーズ系アーティストに楽曲発表の機会を与えることであり、彼らがそのために魂を売り渡さずに(あるいは破産に追い込まれずに)済むようにすることです。われわれはインディーズ系音楽の信奉者であり、それが日常的に受け入れられ、メインストリームの有力な競争相手になることを願っています」。

 Independent Music Onlineは幅広いジャンルの音楽を提供しているが、アーティストの母集団が大きくなるにつれて、選択の幅が若干制限されている。しかしそれでも、現時点でアダルトコンテンポラリー、ヘビーメタル、ファンク、ブルース、テクノなどのジャンルがカバーされている。

 楽曲の購入プロセスは非常に簡単だ。Ind-Music.comにアクセスし、ホームページからミュージックストアのリンクを辿っていく。このストア内で、購入前にすべての楽曲を聴くことができる。ここで試聴できるのは、他の大多数のオンライン・ミュージック・ソースのように楽曲のごく一部のサンプルクリップではなく、購入用のフルバージョンである。このファイルは、フリーのJavaミュージック・プレイヤーであるjlGuiを使って再生される。jlGuiのインタフェースは、WinampやXMMSを使った経験のある人なら誰でも使用できるだろう。

 ユーザーは楽曲を1つ選択して購入するか、ショッピングカートに追加しておいて、後でまとめて購入する。どちらの場合も、PayPalオンライン支払システムを使って決済することができる。これは同サイトの唯一の支払い方法である。なぜPayPalなのだろうか。「正直に言えば、(ビジネスパートナーであるMichael Brownと)わたしが既にPayPalのアカウントを持っていたからです」とヘフナー氏は笑って答えた。「PayPalを選ぶにあたっては、ユーザーシェアのことも考えました。他のどのシステムよりも、PayPalアカウントを持っている人のほうが多いように思ったからです」。

 このミュージックストアでは、すべての楽曲が販売されているわけではなく、ほとんどの楽曲は無償でダウンロードできる。この判断はアーティストに一任されている。「アーティストによっては、デモバージョンを無償で公開し、完成したらデモバージョンをスタジオカットに置き換える人もいます。バンドにとっては、これは自分達の楽曲をリスナーに紹介するための有益な手段なのです」とヘフナー氏は語った。

 ヘフナー氏によると、Ind-Music.comの契約アーティストは、他の大手オンライン・ミュージックストアで楽曲を販売しているアーティストよりも、1曲の売り上げに対して多くの利益を得ているということだ。「われわれがアーティストに多くを還元できるのは、サイト構築にオープンソース・ソフトウェアを使用して固定費を下げているからです。マネージャー、レコード会社、エージェントといった仲介者をできる限り排除していることもその一因です。アーティストをInd-Music.comに縛り付けるための契約は存在しません。彼らはいつでも好きなときに離れていけます。今は売上額を60/40の比率で分け合っていますが、販売数の多いバンドの場合は、バンド側の取り分を最大で50/50まで増やすことができます。われわれが彼らの楽曲に対して要求する唯一の権利は、楽曲をデジタルダウンロード形式で販売するというものです。彼らが他のオンラインストアでCDを販売したいと思えば、自由にそうできます。彼らの活動をわれわれに縛り付けるつもりはまったくありません。それは彼らに対してフェアでないからです」。

 Ind-Music.comの利益の一部は社会に還元されている。ヘフナー氏はこう語った。「われわれはMozilla、OpenOffice.org、Mamboに頻繁に寄付をしています。これらのプロジェクトのおかげでわれわれは優れたシステムを使用できるのであり、これはわれわれにできるせめてもの恩返しです。われわれは現在、Mandriva 10.1、PHP 4.3.9、MySQL 4.1、Apache 2.0.x、OpenOffice.org 1.1.4、OpenOffice.org 1.9.113、Firefox 1.0.x、Thunderbird 1.0.xを使用しています」。

 ヘフナー氏によると、Ind-Music.comのミュージックストアは始まってまだ7カ月だが、このサイト自体は既に3年間運営されているそうだ。「オンライン・レーベルとしての活動はしていたものの、このミュージックストアを安定運用させるまでに、さまざまな手直しを重ね、変更を加えてきました」。

 将来的にはストリーミング方式の「ラジオ・ステーション」を開始する予定もあるそうだ。「実は、元々はラジオ・ステーションを運営していましたが、ラジオ・ステーションの運営にはアーティストやレーベルとの契約、宣伝活動など何かと厄介な仕事が多く、やむをえず断念しました。しかし先日、Cygnus Radioとの間で、インディーズ系音楽番組を共同で制作するという話がまとまりました。今後の展開に大いに期待しています」。

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