独立調査の独立性

投資目的や仕入先や顧客の評価、就職などのために、誰しも企業の実力を評価する必要に迫られたことが何度かあるだろう。そんなとき、ほとんどの場合は、いわゆる「専門家の意見」といういうものにある程度は頼らざるを得ない。

» 2005年08月23日 12時45分 公開
[Lauren-Rudd,IT Manager's Journal]

 投資目的や仕入先や顧客の評価、就職などのために、誰しも企業の実力を評価する必要に迫られたことが何度かあるだろう。そんなとき、ほとんどの場合は、いわゆる「専門家の意見」といういうものにある程度は頼らざるを得ない。

 その「専門家の意見」の大部分は、ウォール街のアナリストの調査に基づいている。企業の調査のほとんどは細心の注意をはらい正確を期して行われ、時として企業にとって不利なものとなる。残念なことだが、企業のイメージを損ない経営者の自尊心を傷つけるような調査結果になった場合、怒りを買うだけでは済まないこともある。アナリスト個人が重大な危機にさらされかねないのだ。

 一例として、フィラデルフィアのブローカー商社、Janney Montgomery Scott社のギャンブル業界アナリスト、マーヴィン・ロフマン(Marvin Roffman)氏の場合を取り上げてみよう。1990年、彼はドナルド・トランプ(Donald Trump)氏経営のカジノ「Taj Mahal」がオープンした時に次のように書いた。トランプ氏は金を掛けずに相当な宣伝効果を得ていることだろうから、4月から6月の間はあらゆる記録を塗り替えるだろう。しかし、10月から2月にかけて冷たい風が吹く頃にカジノは立ちゆかなくなり、マーケット自体がなくなってしまうだろう。

 トランプ氏は、Janney社の当時のCEO、Norman Wilde氏にすぐさま文書でロフマン氏への怒りをぶつけた。また、ロフマン氏が公の場で謝罪するか解雇されない限り、Janney社を提訴すると伝えた。

 屈辱に甘んじてトランプ氏に謝罪文を書くか、解雇されるかの二者択一を迫られたロフマン氏は、後者を択んだ。結局はロフマン氏の分析が正しかったわけで、カジノは実際に倒産に追い込まれた。また、その後Janney社を訴え勝訴した。

 この12年後の2002年の2月にも、わたしは今回と同じような記事を書くはめになっている。BNP Paribas社に籍を置いていた債券アナリストのダニエル・スコット(Daniel Scotto)氏が公にしたところによると、2001年の8月に彼がクライアントに対し、Enron社の証券は「何が何でも今すぐ処分したほうがいい」と告げたことを理由に同社を解雇されたらしい。

 コンファレンスコールでの彼はかなり断固としていたが、ニューヨーク証券取引所の立会い場で行われたため録音されていたその後のコンファレンスコールでも、「君は降格だ。君のアドバイスは良くなかったし、適切でもなかった」とParibas社から告げられたと言った。

 Paribas社はスコット氏に休暇を出し、ついで解雇通知を送った。Paribas社がEnron社と投資銀行業務の取引があったことは驚くに値しない。

 それから4年近くが過ぎたが、残念ながら、こういったことは今後もなくならないと思う。今度は独自調査を操作しようとしたという、とんでもない事例がごく最近ニュースになった。

 Wells Fargo Securities社の調査アナリスト、Tad LaFountain氏の6月26日付調査記録によれば、Altera社は、彼が同社の株式に対して否定的な見解を持っていることを理由に、彼からの電話もカンファレンスコールでの質問も受けようとしなかったという。Altera社はプログラマブル・ロジック・チップを製造しCisco Systemsなどに供給している。

 LaFountain氏は、株式のレーティングを「売り」にしていたが、Altera社をカバレッジから外し、さらに「独立投資調査の役割について正しい認識を持っている」ライバル会社に代えたい、とした。

 Altera社の最高財務責任者、Nathan Sarkisian氏は、同社の評判を落としたことに対する謝罪を発表し、「申し訳ありません。今にして思うと、LaFountain氏の排除を決めたことは誤りでした。LaFountain氏、投資家の方々、および市場の方々に対しお詫びいたします。」と述べた。

 しかしAltera社が引き下がったのが公平な調査の勝利だったとするなら、それもはかないものだった。Altera社の謝罪のわずか5日後の火曜日、Wells Fargo Securities社は「財政的な理由と市場の変化」のため、株式調査をすべてやめると表明した。

 では、技術部門への調査データの提供を業務とする、Gartner社やForrester Research社などの場合はどうだろうか。同じようにウォール街の影響を受けているだろうか。やはり受けていると思う。特定の企業の調査を行う場合には、そうであることは疑いようがない。もっとも、こうした調査会社は、ひとつの企業の動向が与える影響の比較的少ない、業界向けのデータにより大きく関係していることが多い。

 とはいえ、こうしたことから学ぶべきことは、業界とも要件とも無関係だ。企業が会社の実態を隠そうとして、それがあからさまかどうかは別として、何らかの方法で注意をそらせようとしているときには、状況をよく見極めて慎重に行動する必要がある。

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