Linuxホーム・オフィスの賢い運用法――その3――(2/3 ページ)

» 2005年08月24日 14時37分 公開
[Corinne-McKay-and-Daniel-J.-Urist,japan.linux.com]

バックアップと災害時の復旧

 バックアップも災害時の復旧計画も持たないホーム・オフィスは、崖の縁に立ってゆらゆら揺れているようなものである。安全への道は、バックアップと復旧処理の必要性を評価することから始まる。データのバックアップだけでよいのか、高可用性が必要か、完全な災害復旧計画と業務継続計画を準備すべきか。アプリケーションやオペレーティング・システムもバックアップする必要があるだろうか、ユーザー・データだけでよいだろうか。バックアップ・システムを考える際は、データ喪失の許容度と、壊滅状態になっても業務を継続できるようにするために投入する労力・費用の限度が指針となる。

 検討の際に作業の大部分を占めるのは最悪ケースに対する計画だが、必要性の評価は業務の継続性にとってきわめて重要である。この判断には、技術的なものもそうでないものも含め、さまざまな要因が絡んでくる。たとえば、どれくらいの期間顧客を待たせることができるだろうか、あるいは、どれくらいの期間無収入で耐えられるだろうか。仕事に使う情報は他から入手できるだろうか。もし入手不可能なら、バックアップの重要性は倍増する。また、業務の遂行に物理的場所が必要かどうかも検討すべきだ。業務内容によってはWi-Fi設備のある喫茶店でノートパソコンを開けば「ホーム・オフィス」になることもあるが、日々顧客と面談しながら仕事をしている場合は、火災時の臨時会議室を検討しなければならない。

 業務の性質によって、バックアップの保存期間や使用するバックアップ媒体の耐久性も変わってくる。たとえば、米国の会計制度の下で業務を行っている場合、経理データは7年間の保存が義務づけられている場合があり、バックアップ媒体はそれ以上の耐久性を持つ必要がある。Sarbanes-Oxley Actなど、米国で最近成立した法律では、企業データの安全性がさらに強く求められている。

 バックアップの第一の目的は、回避可能な程度のハードウェア障害が発生した場合にマシンを復旧することにあるのではない。ここまでの解説に従ってRAIDとECC RAMを備えた可用性の高いマシンを準備したのなら、バックアップの第一の目的は、削除してしまったファイルの復元と洪水や火災などの本当の災害時における復旧にあるはずだ。HDDの障害などは、不便ではあっても、災害ではないのである。定期的に全システムをアーカイブするのはよいが、バックアップしている間中ずっとコンピュータの側に張り付いて5枚のCDを差し替えねばならないとしたら毎日バックアップするのは願い下げだろう。日次データ・バックアップというのは、スケジュールに従って自動かつ無人で行うものである。

 バックアップの方法は、Linuxディストリビューションによっても変わってくる。インストールは一般的な方法で行い、不要なパッケージは削除すること。そうすれば、OSをバックアップする必要性はあまりない。いざというときは、再度ダウンロードすればよいからである。パッケージが必要になったら、APTやyumなどの最近のパッケージ・マネージャーを使って簡単に再インストールできる。さらに、OSをバックアップに含める必要がなければ、バックアップのすべてを1枚のディスクに収めることができ、無人バックアップが可能になる。

 次に、バックアップする媒体を選択する。サードパーティ製のインターネット・ストレージ・サービスや作業中の重要ファイルを自分宛に電子メールで送るという単純な方法を除けば、バックアップ媒体は、テープ、HDD、CDやDVDなどの光メディアなどになる。以下、それぞれの長所短所を説明する。

 テープは、かつて、バックアップ媒体としてよく使われていた。今でも、ディジタル・リニア・テープ(DLT)はエンタープライズ用バックアップの標準的存在として君臨している。しかし、テープによるバックアップはホーム・オフィスではあまり実用的ではないだろう。安価なテープ媒体を使おうにもHDDの容量の方が大きいからだ。このため、きわめて高価なエンタープライズ向けテープ・ドライブとそれ用の高価なテープを使うしかないのである。今日のDLTバックアップ・テープには安定性がきわめて高いという特長がある。業務の性格によっては、その安定性を求めてテープ・ドライブを購入すべき場合もあるだろう。特に、バックアップしたデータを長期間保存しなければならない場合には意味がある。DLTテープは、最適な条件の下では最長30年持つと評価されているのだ。

 HDDは、最近、バックアップ媒体として人気を集めている。安価で容量が大きく高速だからである。形態としては、取り外し可能なUSB HDDを使う方法、メインのコンピュータにHDDを増設する方法、新たにコンピュータを用意してバックアップ・デバイスとして用いる方法などがある。内蔵HDDは50ドルほどと安価だが、ドライブ自体が比較的壊れやすく、内蔵の場合は可搬性がないことが欠点である。バックアップするデータがごく少量で可搬性を必要とする場合は、キーホルダー型のUSBフラッシュ・ドライブを利用するとよい。従来のHDDよりも物理的に安定しているからである。

 ホーム・オフィスでは、CDやDVDなどの光メディアがよいだろう。今日発売されているコンピュータには、ほとんど光メディア・ドライブが搭載されている。このメディア自体は安価で、比較的安定しており、ストレージ容量も適当である。CDとDVDは、可搬性がきわめて高く、オフサイトに置くバックアップとして便利だ。欠点は、書き込みが遅く、読み取りもHDDより遅いこと。また、耐久性も永久ではない。ほとんどの光メディアは、未使用状態で5〜10年の寿命と推定されている。記録したディスクの耐久性は、保存環境とディスクを預けた相手に依存する。したがって、耐久性が心配なら、メーカー提供の製品情報を確認すべきである。CD-RWの場合は20〜100年と見積もられているが、長期のバックアップには決して使うなという意見もある。

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