Linuxホーム・オフィスの賢い運用法――その3――(1/3 ページ)

このシリーズでは、小規模オフィスを対象にLinuxの運用法について解説している。最終回である今回は、HDD上に格納したデータの保護について説明しよう。

» 2005年08月24日 14時37分 公開
[Corinne-McKay-and-Daniel-J.-Urist,japan.linux.com]

 このシリーズでは、小規模オフィスを対象にLinuxの運用法について解説している。その1ではハードウェアとオペレーティング・システムについて、その2ではセキュリティとISPの選定について説明した。最終回である今回は、HDD上に格納したデータの保護について説明しよう。

 HDDはコンピュータの単一障害点に最もなりやすく、しかも最も重要な個所である。電源もよく壊れるが、その場合でも、今日のジャーナル付きファイル・システムでは、通常、データが失われることはない。しかし、マシンにHDDが1台しかなく、バックアップがない、もしくは不十分な状態でHDDが壊れれば、文字通り、仕事を失うことになるだろう。例として、筆者らの近縁者の事例を紹介する。彼はホーム・オフィスで仕事をしていたのだが、HDDは1台だけで、信頼できるバックアップ・システムは用意していなかった。そして、HDDが壊れたとき、事の重大さを骨身に沁みて知った。HDDの障害と同時に2年分に相当する仕事が消失し、数千ドルと数週間を費やしても回復できたのはデータの一部だけだったのである。RAIDを利用すると、HDDに障害が発生しても、店を畳むような大損害にはならず、最小限の不便で済ませることができる。

 RAID、すなわちRedundant Array of Independent(またはInexpensive)Disksは、システムのフォールト・トレランスまたはパフォーマンスの改善を目的に複数のHDDを組み合わせる構成法である。複数の種類があるが、この解説ではRAID 1を用いる。これはミラーリングとも呼ばれており、その名が示す通り2つのドライブに同じ情報が格納される。パフォーマンスに関しては単体のHDDよりも読み取りは少し速く書き込みは少し遅くなる。しかし、これは実装によって異なる。実用上は、RAID 1と単体HDDのパフォーマンスに意味のある差はない。2台のHDDには同じ容量のものを用いるが、同じモデルのHDD2台を組み合わせるのが最も簡単だ。

 HDDを追加する際は発熱に注意すること。2台目のHDDの発熱量によっては、冷却ファンを増設しなければならない。筐体メーカーが指定する推奨条件を確認すること。

 RAID 1の実装には、ソフトウェアによるものとハードウェアによるものの2種類がある。ハードウェアRAIDの場合、RAID対応のハードドライブ・コントローラが必要である。RAIDデバイスはオペレーティング・システムには認識されず、OSに関する限り、単体のディスクとして機能する。つまり、すべての RAID管理はハードウェア・デバイスを通して行い、したがって、そのハードウェア・デバイスに直接アクセスするソフトウェアを必要とする。通常は、そのデバイスを設定するBIOSレベルのプログラムを用いる。ハードウェアRAIDデバイスの上位機種には、オペレーティング・システムの下で動作する管理ソフトウェアが付属しているものがある。しかし、このソフトウェアはハードウェアRAIDベンダーが提供するもので、通常、フリーではなく、Linuxのバージョンによっては機能しないことがある。

 最近のマザーボードはハードウェアRAIDを搭載していることが多いこと、また、RAIDのためにオペレーティング・システムの構成を変更する必要がまったくない点は(もちろん、RAIDデバイス自体をサポートするドライバは必要である)、ハードウェアRAIDの長所である。よく使われているハードウェアRAIDデバイスは、Linuxもそのほとんどをサポートしている。しかし、RAIDに対応していないマシンをRAIDマシンに転換するのが難しく、これがハードウェアRAIDの大きな欠点である。RAIDに切り替えるには、既存のHDDを完全にバックアップし、2台目のドライブを増設してRAIDデバイスに再構成し、改めてデータを格納しなければならないだろう。もう1つ、障害通知機能も大きな欠点だ。オペレーティング・システム・レベルの管理ソフトウェアが付属していれば自動障害通知機能を備えていることが多いが、そうでなければ、ログ・ファイルを丹念に調べて障害の有無をチェックするようにしなければならない。

 一方、ソフトウェアRAIDは、目的はハードウェアRAIDと同じだが、RAID処理はハードウェアRAIDコントローラではなくオペレーティング・システムが行う。ソフトウェアRAIDデバイスの作成と実装は、著名Linuxディストリビューションのほとんどが対応している。少々厄介な点もあるが、既存の単体ディスクをRAID 1構成に転換することも可能だ。LinuxのソフトウェアRAIDには電子メールによる自動障害通知機能があり、簡単に設定できる点もよい。また、ハードウェアRAIDより、冗長性を高くできる点も利点である。

 ほとんどのディストリビューションでは、ソフトウェアRAIDの設定はインストール時に可能だが、電子メールによる自動障害通知の設定はRAIDサブシステムを手作業で構成する必要がある場合がある。mdadm.confファイル(通常は、/etc/mdadm.confあるいは/etc/mdadm/mdadm.conf)を開きMAILADDRディレクティブを追加するのだが、詳細はmdadmのmanページに説明されているので参照されたい。電子メールによる自動障害通知には、ローカル・メール・サブシステムが必要な点に注意すること。

 最後に、重要な注意を1つ。マザーボードに搭載されているIDEコントローラを使っている場合は、RAIDを構成するHDDを異なるコントローラ・チャネルに実装すること。IDEドライブが多すぎて不可能な場合は、IDEコントローラを増設する。エンタープライズ・レベルでよく行われているように、コントローラ・レベルで冗長構成にするためである。コントローラが障害を起こす可能性はHDDや電源よりも遥かに小さいが、2台の RAIDディスクを同じコントローラに接続していたのではシステムが停止してしまう。もっとも、これが壊滅的打撃になることは滅多にない。HDD上のデータが損傷することはおそらくないからだ。

次ページ:バックアップと災害時の復旧

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ