ここまで、業務改革プロジェクトの体制面、進め方の要点を述べてきた。ここからは、新しい業務とシステムを展開した後の取り組みについて述べたい。
プロジェクトではさまざまな障害が発生する。業務を変えることへの抵抗やシステム開発が予定どおりに進まないことはよくある。こうした障害を乗り越えて何とかシステムの稼動にこぎつけると、そこで一服感が出てしまう。しかし、システム稼動は折り返し地点にすぎず、業務で使いこなして具体的な成果を出すことが目的であることは言うまでもない。
ところが、実際には、システム導入後の効果検証まで行えていないことが多い。ある調査によるとIT部門での投資効果測定手法を確立している企業は20%程度で、約50%の企業がIT投資の効果が分かりにくいと答えている。
投資効果測定はIT投資における重要テーマであり、さまざまな議論が行われ、手法が提案されている。それにもかかわらずなぜこのような状況なのだろうか。理由は幾つか考えられるが、1つには投資効果測定を難しく考えすぎているのではないかと思う。
システムがビジネスに不可欠な基盤になりつつある状況で、ITだけの効果を測定することに意味はなくなってきている。「IT投資」の効果測定というあまり意味のない課題が、かえって取り組みを難しくしてないだろうか。
結局のところ、すべての投資はどのくらい収益に貢献したかで評価されるべきであり、業務とシステムを合わせて、全体として売り上げが幾ら伸びて、コストが幾ら減ったのかで評価すればいい。
こう言うと、財務的な定量効果に直接結びつかないシステムはどう評価するのか、という反論があるだろう。確かに、こういう場合には、財務的な定量効果にいたる過程をプロセス指標などで定量評価するといった手法が提案されている。これはこれで成果が出ない場合の原因分析としては意味がある。
しかし、そもそも、そういうテクニック論よりも、売上増やコスト減をコミットできない投資はすべきではないという覚悟やルールの方が重要ではないか。そのくらいの覚悟がないなら、貴重な資源を投入する価値はないとトップは判断すべきだ。
費用についても単にシステム構築費用に限らず、その前段の業務検討に要した費用を含めて、全体として評価を行う。多少の無理はあっても、実際に評価を行い、結果にこだわって改善を続けることの方が、評価方法を試行錯誤したり、何もしないでいたりするよりはよほど意味がある。
以上、本稿では中堅企業のシステム構築の勘所を述べてきた。「システム構築」と言いながら、業務や組織、人の内容が多くなった。システムがツールである以上、重要なのはどこでどう使うかだ。今後、ますますこうした検討が重要になってくるだろう。
しかし、だからと言って、いつもプロジェクトを立ち上げて取り組む必要するにない。むしろ、業務を行う中で、現場の不満や問題点を常に捉えて改善をしていくことが重要だ。本質的に経営トップや部門長は、改革を常に行うべきで、数年後にどうなっているというビジョンを持っていなければならない。ビジョンに基づく継続的な業務改革の取り組みこそ、システム投資の質を高めるカギなのだ。
神宮司 剛
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.