ITを利用すれば、最小限の装備で外出先を仕事場に変えてしまうことができる。これを移動オフィスと呼ぶことにして、その構築に必要な知識や技術を考えてみよう。
ここ数年の間に、携帯性に優れたB5ノートパソコンに無線LAN機能が内蔵され、さらに安価に提供されるようになってきた。このことが、多くのビジネスマンの仕事のスタイルを変え始めている。例えば営業職では、外出先で顧客の要望する情報を即座に調べ、注文をその場で処理して在庫を押さえる、ということをごく普通に行うようになってきている。
従来から保険の外交職などでは専用の携帯端末を利用し、顧客の目の前で保険支払いのシミュレーションを行うといった利用を進めてきたケースもあった。契約した内容や業務日報などを端末に入力し、電話線を使ってセンターに接続することで、出社することなく業務を遂行できるような仕組みも作られてきた。宅配業などでは、バーコードを読み込んで処理する携帯型の端末を利用し、小型のプリンタから伝票やシールを印刷するというシーンも、いまや当たり前に見られるようになっている。
ただ、こうした従来の携帯型業務端末はその業務に特化した「専用品」が多く、一般に販売されているノートパソコンと違って比較的高価で入手困難なものがほとんどだ。部署単位やプロジェクト単位、ましてSOHOなどではなかなか利用できないものであった。
だが前述したように、近年のノートパソコンの小型高性能化や、第3世代携帯電話の普及、公衆無線LANの普及などで、状況が大きく変わってきている。
その第一の理由が、ノートパソコンの高性能化である。低消費電力化が進み、バッテリーの性能も向上したことで、高性能のパソコンを長時間にわたって電源のないシーンで利用できるようになっている。このおかげで、朝出かけてから夕方帰るまで、電源なしでパソコンを利用できる環境が出来上がった。
外出先で仕事をする=移動オフィスを実現しようとすると、どうしても必要になるのがネットワークへの接続手段だ。
これも近年ではPHSや携帯電話の通信スピードが高速化され、128kbpsや386kbpsといった、メールやWebページへのアクセスには十分な速度での接続も可能となった。また、まだまだ拠点数は少ないとはいえ、公衆無線LAN(いわゆるHotSpot)が利用できる場面も増えている。
このように、PHSや携帯電話とノートパソコンを一緒に持ち歩くことで、日本全国(場合によっては世界で)場所を気にすることなく、ネットワークアクセスが可能となる。つまり、移動オフィスの最低限の要件ともいえるパソコンと通信手段を、一般的な商品だけで実現することが可能となっている。もちろん、無線LANが利用できれば、ブロードバンド接続可能な移動オフィスがすぐに手に入る。
しかし、これだけでは移動オフィスが実現できたとはいえない。なぜだろうか。
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