役に立ちそうなソフトウェアもまずはA社長自らが試用し、有用性が確認できたら、会社で採用するかの検討を役員会にて行う。A社長の場合、経営戦略と整合性のあるIT資源の調達を行っているわけではないが、経営者自身の事業デザインとITの活用が直感的にリンクしていた。同社の情報化投資は盛んで、早くから社内サーバの構築、ネットワークインフラの整備にも取り組み、セキュリティ対策もしっかりと行っている。社員のITリテラシーも非常に高い。
これまではニッチな業界だが、トップブランドとして君臨してきた。高品質の製品を無駄なく作り供給すれば収益が上がる。やるべきことが明確だったから、コンピュータ好きの知識をフル稼働し、最適なITシステムを安価に導入して、生産管理、スケジューリング、CAD活用、図面情報共有、原価計算、会計業務をきっちり行ってきた。地域ではどこよりも進んでいる。
しかし、ここにきてA社長は限界を感じていた。経営環境は変化したのだ。現事業の先細りが見え、新たな事業ドメインに向けての変革が急務となった。
<A社長の課題>
ムリ・ムダ・ムラを排除する生産現場のカイゼンを進めていく課題とは勝手が違う。この課題にどうITを生かしていけばいいのか、また逆にITを生かした事業戦略とは何のかがよく分からないのだ。
A社長がこれまでコンピュータの知識を大いに活用し、業務改善にはITを活用して十二分に対応してきた。しかし、新たなものを創り上げていく経営革新と同時に、ITで支援するというのは初めてで戸惑っている。
このA社長は、経営の知識とITの知識がバラバラの状態ではCIOどころかCEOとしても機能するのは難しいと考え、経済産業省が推進するIT経営応援隊の1事業である経営者研修会に参加している。研修会を通じA社長は、自分の限界とやるべきことを見極め、ITコーディネーターなどの外部リソースの有効活用の検討を開始した。
中小企業にとってCIOの社内調達が難しい場合は、ITコーディネーターのような外部の人間を活用する方法もある。
木村玲美
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