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» 2005年12月28日 07時00分 UPDATE

2005年アクセストップ10:姉歯、みずほ証券の誤発注、JR福知山、原因はみな同じ?

2005年を振り返ると1つのキーワードが浮かび上がる。それは、ITmedia エンタープライズにおいて年間アクセスで3位に入った特集「顧客満足度ナンバーワンSEの条件」のテーマとオーバーラップしていた。

[怒賀新也,ITmedia]

 2005年を振り返ると1つのキーワードが浮かび上がってくる。またそれは、ITmedia エンタープライズにおいて年間ページビューランキングで3位に入った特集「顧客満足度ナンバーワンSEの条件」(4月〜6月)のテーマとオーバーラップしていた。そのキーワードとは、「構造」だ。日本のいたるところで一気に吹き出した構造問題の兆候を、読者はいち早く感じ取っていたのだろうか。ここでは、2005年に起きた出来事から、SEが認識しておくべき普遍的な事柄を拾っていきたい。

 2005年ほど構造という言葉が意識される年はなかった。小泉「構造」改革、姉歯元一級建築士やイーホームズ、ヒューザー、木村建設などによる組織的な耐震「構造」偽装問題。また、みずほ証券による株式誤発注事件やJR福知山線で起きた脱線事故も、業務を遂行する上での仕組みに欠陥があったという意味では、構造問題そのものといえる。

 構造問題が引き起こす被害の特徴は、なんといっても「取り返しがつかないこと」だ。鉄筋が少ないマンションの耐震強度を後から修復することは難しい。結果として、被害者にとっては人生の危機に発展するくらい致命的な損失が発生してしまう。マンションローン債務者の1人として、グランドステージ○○を買った人の悲しみは筆者にも想像できる。

 しかし、ここではあえて、欠陥マンションの購入者だけが被害者とは限らないのではないか、という問題提起をしてみたい。耐震偽装に加担した姉歯氏やヒューザーの小嶋進社長、または、株の発注ミスをしたみずほ証券の若手ディーラーも、ある意味で被害者として考える必要があるのだ。

 もちろん、彼らを擁護するような意図はない。姉歯氏の行為は一級建築士として弁解の余地はまったくないし、ヒューザーの小嶋社長にモラルが欠落していることも明らかだ。しかし、彼らのような確信犯ではなくても、何かの拍子で「禁断の一歩」を踏み出してしまうことは、どんな場所においてもリスク要因として潜在している。そのリスクを事前に視野に入れておくことも必要だ。1万回中9999回は正しい判断を下しても、たった1度誤るだけで大事件は起こる。姉歯氏の「弱い自分がいた」という言葉を、感情論ではなく、確率論で受け止めるとコトが少し違って見えてくる。

 これらの事件の背景として、日本人のモラルの低下を挙げる声も多くあった。しかし、IT化を伴いながら経済が高度に発展した現在、モラルだけに原因を求めることには無理がある。現代は、1人の人間が、自分では手に負い切れないような大きな出来事を、期せずして引き起こしてしまう環境の中で生きているからである。

 極端な話をすれば、原始時代なら、1人の人間のミスが引き起こす被害は小さかった。例えば、「マンモスの急所を槍で狙ったつもりが失敗、逆に自分が襲われて命を落とした」といったケースを考えても、被害の範囲は自分か、自分の周辺くらいに留まる。

 一方、ネットワークを介して高度に情報化された現代では、1人の人間が行ったワンクリックのミスが世界中に影響を及ぼす可能性がある。実際に、みずほ証券の事件では、あっという間に400億円という損害が発生してしまった。クリックした人物は同社の社長でも取締役でもない、普通の社員である。その社員が、サラリーマンの生涯所得の、実に100〜200倍のカネを一瞬で吹っ飛ばしたのである。

 だが、このとき、400億円の被害を出した責任を個人が負えるはずがない。責任を負えない以上、個人のモラルに原因を求めることもできない。つまり、「性善説で……」という言い分は、結果として、管理者の怠慢を問われるというロジックとしての道のりを与えられてしまうのである。

 SEも含まれるが、何かの構造を考える者にとって最も重要なことは、安全な環境をできるだけ100%に近い精度で維持する仕組みをつくることだ。そう考えたとき、実際には、被害者だけではなく、「加害者」までも守る構造を事前に作り上げることが、皮肉にもトータルな安全保障につながる。

 例えば、耐震強度偽装事件は、建築確認作業の民間企業への開放という、構造的な欠陥がなければ起きていなかった。偽装行為を行えない構造になっていれば、姉歯氏を「守る」ことができ、結果として、マンション購入者という被害者も出さずに済んだ。したがって、この構造をつくってしまった政府の責任は重いということになる。

 そして、構造づくりの重要性は、情報システムの構築にもそのまま当てはまる。特集を通して、企業の構造そのものである情報システムに完全性が求められること、さらに、それをSEが正しく理解し、ユーザー視点から情報システムを構築することの重要さを再認識するにいたった。

 例えば、みずほ証券の株式誤発注事件は、東京証券取引所の情報システムに、「発行済み株式総数以上の売り注文は受け付けない」といった本来ならあるべきロジックが含まれていれば、起きていなかったはずだ。だが、その当たり前のロジックが、東京証券取引所という日本で最もクリティカルなシステムに実装されていなかった。また、注文の取り消し要求が受け付けられなかったことも、金融システムへの不安を煽るには十分な欠陥だった。これらは、明らかな設計ミスであり、あるいはテスト不足であり、構造問題である。

 逆にいえば、構造としての情報システムを設計するSEには、思わぬミスからユーザーを守るような仕組みを実装することまで要求される。そうなると、SEの資質には人格的な面も含まれると言えよう。「優秀」なだけでは駄目だ。

 特集では、システム設計を行う際の方法論として、要件の抽象化(関連記事)、エンタープライズアーキテクチャを使った設計技法(関連記事)などを紹介した。また、システムを構築する上で基盤となるテクノロジーもしっかりと把握しておく必要があるとの認識から、SOAをはじめとしたトレンドも追った。(関連記事

 だが、何よりも、顧客の立場からシステムを設計することが重要であると考える(関連記事)。使う側の目線から設計を考えたときに初めて、情報システムに内在し得る構造欠陥の有無を的確に把握できるからである。

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