SOAという新たな潮流が起ころうとしている。NTTドコモの携帯電話が起こした固定電話から携帯電話へのシフトや、アップルのiPODに見られるインターネットでの音楽購入へのシフトの予兆と同様に、システム構築にも新たなパラダイムが訪れている。SEはこうした大きな流れを捉えておく必要がある(特集:顧客満足度ナンバーワンSEの条件)
清水敏正(技術理事 / IBM Distinguished Engineer)
2005年4月4日発行・日経コンピュータの特集記事『動かないコンピュータ』を見て、ますます、小規模なアプリケーション特化型のSOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づくソフトウェア・コンポーネントがこれからの時代に適合するのであろうと確信を深めた。
記事の記述によると、ある自動車会社のSCMシステムをSAP製のAPOというパッケージを利用して、2004年の春に向けて2003年7月から開発に着手した。だが、総合テストに進んだ段階で、処理性能が実用に耐えないことが判明、40億円を投入したプロジェクトを廃棄してパッケージを使わないでゼロから自社開発することになったとある。
失敗の原因は、部品点数の見積もりの甘さ、アドオンソフトの作り過ぎ、などと言われているが、大規模なシステムをモノリシックなパッケージで作ることの限界を物語っているのではないかと感じる。大量生産の時代から個別生産の時代への流れとも言える。
今、企業は急速にERP離れを始めていると言う人がいる。ちょっと考えればそれは当然かもしれない。事務の効率化、コストダウン、特に開発コストの最小化と一定の品質の保証という物差しで考えれば、大規模なERPパッケージの導入は、企業内の多くの賛成を得やすかったのも事実であろう。Big Nameの採用での失敗は、無名のソフトウェアの購入よりは担当者の責任を追求しにくいという側面もある。
今では、人と違うことをやることに意義があり、企業の独特な強みであるという差別化の思考が入ると、自社開発するのに役立つ部品だけを選んで購入したくなるのは当然の流れである。SOAの考え方によって作られた「サービス部品」の優位性がここにある。
翻って、世の中の大きな流れで物事を見てみよう。われわれが今、立っている時点は歴史的にどのようなポイントにあるのか。 ケンブリッジ大学や国連大学などの客員教授を兼ねる著名なCarlota Perez教授の2002年の著書『Technological Revolutions and Financial Capital: The Dynamics of Bubbles and Golden Ages』から見ると、我々は現在重要な転換点を経て、次なる崩壊までは順調な発展を謳歌できるはずであるポイントにいる。
石油や自動車の発展、大量生産の仕組み・技術で恩恵を得た世界は、一度は大きな失敗を経験している。同じように1971年のマイクロプロセッサの出現から30年近く経って経験したドットコムの崩壊以後、世界は情報技術・通信技術の恩恵を得て発展し続けている。
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