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» 2006年05月19日 08時00分 公開

[シリーズ特集]ネットテレビは儲かるか 最終回:4度目の挑戦は始まったばかりだ

 加速度的に進んでいるかのように見える「通信と放送の融合」。その象徴ともいえそうなネットテレビ(※1)は、視聴者数の急増で注目を浴びる半面、収益が追いつかないというジレンマを抱えている。その可能性に今、白黒付けるのは時期尚早だと、インターネット総合研究所(IRI)代表取締役所長の藤原洋氏は指摘する。藤原氏によると、「通信」が「放送」事業を試みるのは史上4度目。そんな今という時代は、ライフスタイルの変化が現在進行中で、「道具立てがそろった挑戦」になっているという。キーマンに、その真相を聞いた――。

[アイティセレクト編集部,アイティセレクト]

 通信の世界が動画サービスを手掛けるのは、これが4度目の挑戦となる。

 最初は1980年代前半、アナログでの実験だ。電話回線で配信されたものを、専用の端末で見るものだった。次は、ISDN上の圧縮動画によるテレビ電話の試みだ。三回目は93年ごろで、ATM網(※2)でビデオオンデマンドを実現しようとした。いずれも実験段階などで終わった。

 そして出てきたのが、インターネットである。ブロードバンドになり、通信サービスを使って動画コンテンツを流せるようになった。こういう道具立てがそろったのは始めてだ。4度目の正直は、技術の発展の度合いが過去の三回とは全然違う。二十数年の歴史の中で画期的なことだ。そして、それはまだ始まったばかり。広告収益モデルがどうなるか、動画ポータルがどの程度行くのかということを、今の段階でネガティブに見ることはできない。この半年や1年の結果で良し悪しをいいきれないのではないか。私自身はかなりポジティブに見ている。

 インターネット協会が監修している「インターネット白書2005」によると、IP網を使って映像配信を受けたいという人が半分以上いた。機は熟しつつある。

 また、インターネットの1日の平均利用時間は、2時間以上が過半数だった。その時間について、可処分時間の中の何の時間を削ったのかを見ると、「テレビ」が圧倒的に多かった。つまり、ライフスタイルが既存のメディアからインターネットに移りつつある傾向が顕著になっているのである。

 さらに、どんな映像配信を受けたいかという設問では、1番目はレンタルビデオの代わり、2番目が過去に放送されたテレビ番組、3番目はテレビでは放送されないスポーツ中継という回答となった。つまり、「ネットテレビvs.既存のテレビ」という図式は間違っている。インターネットユーザーが期待している映像配信というのは、テレビ放送されない動画サービスなのである。

 インターネットのメディアの大きな特徴の1つは、ロングテール(※3)を扱うのに向いていること。1000万人の人が同時に見たいものはマスメディアの放送に適しているが、視聴者が1000人くらいしかいないものはインターネット向きだ。だから、ネットテレビはロングテールを集め、新しい動画市場をつくるところに最も意義がある。「GyaO」も「TVバンク」(Yahoo!動画)も、一番成功する可能性があるのはこの部分だ。

 ただ、「GyaO」の場合は、「編成」という概念があるので、テレビとの中間という、「ミドルテール」といった方がいいかもしれない。いずれにせよ、今までのテレビ放送とは違うメディアである。それが成り立たないと見るのは、時期尚早だ。

財団法人インターネット協会副理事長も務める藤原氏は、国民が可処分時間の中でテレビに費やしていた時間を削ってまでインターネットを見ていることを知った。だが、昨今のネットテレビの躍進を「対既存テレビ」という構図で見るのは間違いだと指摘する(撮影=土居麻紀子)。

 2002年ごろから出てきたリスティング広告は、インターネット市場を大きく変えた。そのリスティング広告は、「GyaO」などに導入されてくる。そして、テレビCMとは違った、ユーザーの属性に合った広告が出てくるようになるだろう。

 これまでの10年は、インターネットの技術が通信網に入り、通信インフラを変えた時代だった。これからの10年は、通信網に動画コンテンツが流れる時代だ。テレビの視聴時間が減り、インターネットに移っているという事実があるため、インターネット業界も放送業界も高い関心を寄せている。

 日本の放送市場は約3兆円、レンタルビデオ市場は約2500億円、セルビデオ市場は約4000億円といわれる。そういった映像市場が今後、インターネットにかなりシフトしてくることになる。

 音楽市場は、パッケージメディアから見事にシフトした。「iPod」の影響もあり、音楽はインターネットで買うというモデルができた。技術革新の順からすると、次は映像がそうなる。

 そして、ブロードバンドにテレビがつながり、通信網のコンテンツをテレビで見るという時代が来るだろう。ネットテレビはまだ、パソコン向けのコンテンツというフェーズだ。いずれ、大型ディスプレイに対応するものが出てくると考えられる。

「WoooでREC(ウーでレック)」――テレビCMに出演する女優の黒木瞳さんの決めゼリフ。日立製作所は4月、プラズマテレビの新作を披露した。通信のコンテンツがこの大画面で見れるようになる日も近い!? 

 ライフスタイルが変わっているのは事実。テレビという受動的なマスメディアに対し、ロングテールやミドルテールの部分をカバーするのがインターネットになる。

 その本質にあるのは技術革新。技術革新はライフスタイルと法制度を変える。技術の進展度に合わせた、法体系、制度があるべきなのだ。

 IRIグループでは、プロデュース・オン・デマンドが「GyaO」の技術面を、ブロードバンドタワーが「Yahoo!動画」の運用面をサポートしている。また最近、放送局のコンテンツをアーカイブ処理する技術を持つアイ・ビー・イーと資本業務提携した。IRIグループのIP技術と融合させ、放送局のインターネットビジネス参入を支援したいと考えている(「月刊アイティセレクト」6月号特集より)。(談)

(※1)インターネット放送、動画配信などさまざま呼び方があるが、通信網を使った動画サービスで、基本的に無料のものを、「ネットテレビ」と称した。ただし、統一はしていない。

(※2)通信方式の一種で「非同期転送モード」と訳される。電話網やISDN網など一般的な回線交換で使われている同期転送モード(STM)と異なる。もともとデータ、音声、動画などを一つのネットワークで扱えるようにするために開発されたWAN向けの通信技術。現在は、携帯電話やADSLのバックボーンで使われている。

(※3)簡単に説明すると、ある市場において上位20%を占める人気商品を「ヘッド」というのに対して、残りの80%を指す。図示すると、下図のように恐竜のような形になることから、「ヘッド」「テール」と呼ばれる。売り上げ的には、その上位20%で80%に達するといわれ、リアル店舗などスペースが限られるところでは上位20%にあたる商品以外で在庫を持たないのが鉄則とされた。だが、ネットでは残りの80%にあたる商品もそろえて、100%を目指して売ることができるようになった。その好例が、アマゾン・ドット・コムのビジネスモデルである。

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