今一番の成長株は〔ネット‐ネット型〕[シリーズ特集]ネットテレビは儲かるか 第1回

“新進”IT企業が“重厚長大”放送局を傘下に収めようとした「寸劇」から早1年。「通信と放送の融合」は、にわかに進んでいるかのようだ。いや、「融合」はまだだとしても、通信側が放送ビジネスを、放送側が通信網参入を、それぞれすでに始めている。それがいずれ、「融合」につながるのかもしれない。そこに生まれるのは、まずはネットで見れる放送、いわゆる「ネットテレビ」(※)となりそうだ。そのうち、今最も勢いよく成長しているのは、「GyaO」に代表される〔ネット‐ネット型〕である。

» 2006年05月08日 08時00分 公開
[アイティセレクト編集部,アイティセレクト]

 「通信と放送の融合」に対する視線が今、非常に熱い。いわゆるIT企業がここ数年、放送コンテンツの配信を試んでいることがそれを助長しているのだが、そうした流れの背景には、ブロードバンドの進展・普及で通信網が放送網に匹敵するくらいの力をつけてきたことがあるといえる。通信行政を授かる総務省では、通信と放送の融合に強い意欲を示すといわれる竹中平蔵氏が大臣職にある。私的懇談会「通信・放送の在り方に関する懇談会」を1月に発足し、NHKの在り方やコンテンツの著作権問題などを中心とした議論を盛んに重ねている。従来の縦割りの産物である、電波法、放送法、電気通信事業法、有線テレビジョン放送法などの法改正も検討しているようだ。

 2005年。日本テレビやフジテレビなど各放送局がこぞってネットテレビを始めた。IT企業側も、USENのパソコンテレビ「GyaO」のスタート、ソフトバンクグループによる「Yahoo!動画」の強化など、多彩なネットテレビ事業を展開した。06年に入り、「GyaO」の成長はひときわ注目を浴び、「Yahoo!動画」はその対抗馬として見られるようになった。「ワンセグ」開始で、携帯電話におけるテレビ市場争奪も激戦をうかがわせる。ネットテレビは今、どれほど進化しているのだろうか。

 ネットテレビには、視聴端末をパソコンかテレビの二つに大別することを前提とすると、現状では基本的に3方式あると考えられる。

 まず、ネット(通信)のコンテンツをパソコンで見るという、ごく一般的なものだ〔ネット‐ネット型〕(独自に命名した。以下同じ)。代表格は「GyaO」だといえる。

 次に、テレビ(放送)のコンテンツをパソコンで見るものがある〔テレビ‐ネット型〕。ただ、これには二つの「コンテンツ伝送ルート」がある。一つはパソコンに内蔵されたテレビチューナーなどを使ってテレビ番組を見るというもの。これは通常のテレビ放送と同じで、視聴端末としてパソコンを使う。もう一つは、テレビ局側がネットを使って番組を配信するものだ。つまり、放送局によるネットテレビである。民放キー局では、「第2日本テレビ」「News i(ニュースアイ)」「フジテレびーびー」「テレ朝bb(ビービー)」などがそれにあたる。ただ、著作権などの関係もあり、ほとんどのコンテンツはテレビ放送と同一ではない。そうしたこともあり、ニュース番組が多いのが特徴だ。また、画面が小窓のようなものもあり、まだ未熟な印象を受ける。

「第2日本テレビ」のサイト画面
「フジテレびーびー」のサイト画面

 そして三つ目が、ネットのコンテンツをテレビで見るもの〔ネット‐テレビ型〕。これは、大半が有料サービスである。ネット対応のセットトップボックスを使うもので、オンデマンド型がほとんど。つまり、インターネット上のレンタルビデオともいえる。オン・デマンド・ティービーの「オンデマンドTV」、ソフトバンクBBの「BBTV」などがある。「フジテレビ On Demand」もその一つだ。

 このうち、今話題になっているのが、〔ネット‐ネット型〕と〔テレビ‐ネット型〕のネットテレビである。ここでは、とりわけ〔ネット‐ネット型〕のサービスについて考える。ちなみに、〔ネット‐テレビ型〕は将来、一般的になるといわれている。

「GyaO」の躍進

 USENは4月、05年4月にサービスを開始した「GyaO」の視聴登録者数が900万人に達したことを発表した。300万人を獲得するまでに6カ月を要したものの、その後は毎月コンスタントに100万人増を続けている。

 開始時は韓国ドラマなどが目玉コンテンツで、番組数が多いとはいえなかった。だが、伊プロサッカーチーム、セリエA所属「ユベントス」の試合をライブ中継で独占放送したり、プロ野球の横浜ベイスターズ主催試合をライブ配信するなどして、コンテンツを充実させ、認知度を上げていった。以後、ぴあやホリプロと提携して番組をつくったり、サザンオールスターズなどの人気アーティストのカウントダウンライブを放送したり、あの久米宏氏を起用した自動車番組を始めたりと、多彩なコンテンツをそろえた。

 1月からは完全オリジナルドラマを制作・配信、2月からはショッピングチャンネルを開設したほか、報道局を設けてオリジナルのニュース番組の制作・配信も始めた。オリジナル番組はDVD化して発売もしている。そして3月。女性ファッション誌ナンバー1の人気を誇る「CanCam」と連動したオリジナル番組の配信も開始。また「ゲームチャンネル」を開設するなど、コンテンツ拡大の勢いは衰えていない。

 〔ネット‐ネット型〕としては後発かもしれないが、圧倒的な視聴者登録数を獲得し、あっという間にその代表格に躍り出た「GyaO」。ビジネスとして成立することになれば、通信と放送の融合である「ネットテレビ」の象徴として、その地位を確立する可能性は大いにある(全文は「月刊アイティセレクト」6月号に掲載)。

「GyaO」のサイト画面

(※)インターネット放送、動画配信などさまざま呼び方があるが、通信網を使った動画サービスで、基本的に無料のものを、「ネットテレビ」と称した。ただし、統一はしていない。

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