黒字化に向かってばく進へ[シリーズ特集]ネットテレビは儲かるか 第5回

 ネットテレビ(※1)の存在は、ネット広告、はたまた広告市場全体の様相を変えつつある。ネット広告は2005年、媒体別の年間広告費でマス4媒体(※2)の一つであるラジオを抜いた。今年は雑誌も抜くといわれている。つまり、国内広告はすでに、事実上「マス5媒体」なのである。そんなネット広告の成長スピードを加速させる存在として現れたのが、インターネットCM(※3)だといわれている。

» 2006年05月17日 08時00分 公開
[アイティセレクト編集部,アイティセレクト]

 ネットテレビが生まれたことで、インターネットCMは今、最もクライアントが集まる広告媒体になりつつあるのかもしれない。

 インターネット広告推進協議会(JIAA)によると、06年のネット広告市場約2800億円の中で、インターネットCMが占める割合はわずか1%強(約30億円)。「米国は同16〜17%ある。日本は2年遅れぐらいだと考えると、かなり伸びシロのある市場だ」(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)のメディア本部第二メディア部長兼メディア開発部長、田中雄三氏)。だとすれば、ネットテレビ事業で現在、少々の赤字を抱えていても、ことさら問題にはならないかもしれない。

 4月21日に発表された06年8月期中間決算によると、USENは19億円超の赤字に転落した。「GyaO」事業だけで約50億円の損失計上だという。同第1四半期で同事業は約18億円の赤字となり、これで初期投資回収は済んだと見られていた。だが、コンテンツの調達費や制作費がかさむ一方で、依然として広告収入が追いつかなかったという。

 ただ、「GyaO」事業での広告受注は順調に推移し、同第3四半期では10億円以上計上されることがすでにUSEN側で把握できていると一部で報道されている。「インフラ環境が整った1〜2年前からインターネットCMが増えてきた」「『GyaO』の登場で、マス4媒体で展開していた広告主がネットに着目し始め、とりわけそれまでネット広告を出稿していなかったクライアントがインターネットCMをどんどん入れてくるようになった」と田中氏が指摘するように、インターネットCMの出稿は順調に伸びている模様で、成長軌道にあることは間違いなさそうだ。黒字化までは多少時間がかかるかもしれないが、ネット広告、とりわけインターネット広告市場の“膨張ぶり”と照らし合わせると、それはもしかしたら時間の問題かもしれない。宇野康秀代表取締役社長は決算発表の場で、07年8月期には黒字化する見通しを示している。

インターネットCMだけが頼りではない

 一方、同じ広告収益モデルを目指す「Yahoo! 動画」は、実はインターネットCM以外の収益源確保も探っている。

 「今後市場が拡大すれば、(ロングテール(※4)の)ヘッドの部分はインターネットCMでもうかるだろう。だが、検索インデックスの方は、もしかしたらそうならないかもしれない」と、ヤフーのメディア事業部ディレクション室でチームリーダーを務める山根陽一氏は推察する。すると、ロングテールでもうかる仕組みはないのだろうか。山根氏はこう答える。「インターネットCMではなく、検索連動型(リスティング)広告が使えるかもしれない」

 ネットテレビにおけるリスティング広告の可能性の大きさについては、インターネット総合研究所(IRI)代表取締役所長でIRIグループ代表の藤原洋氏も指摘する。つまり、ネットテレビにおける広告には、必ずしも「CM」を用意する必要はなく、従来のネット広告を流用することも大いに可能ということである。

 「動画ポータルというメディアとして成立し、一番の売りが動画となれば、動画広告がメインになる。だが、検索インデックスがブレイクすれば、検索に広告がつく。何がブレイクするかによって、広告も違う形になるだろう。『Yahoo! 動画』は、動画という切り口でポータルになり、そこに付随する一番メジャーなところに、ビジネスモデルが発生するとイメージしている」(山根氏)

 その一例として、有料課金コンテンツとの「合わせ技」もあるという。実際、人気テレビアニメの『エヴァンゲリオン』全26話のうち5話までを、「会員見放題」(「Yahoo! BB」あるいは「Yahoo!プレミアム」の会員(計延べ約1000万人)に対してのみ無料で公開する動画コンテンツ(100番組1000本)のサービス)で公開したら、多くの人が続きを見たくなったために、有料の6話以降がよく売れたとか。このように無料と有料を組み合わせて、ビジネスモデルとして成り立たせることができると考えている。その方が、有料コンテンツだけとして提供するより売れるそうだ。従って、無料と有料のコンテンツがあることはバッティングしないという。

広告出稿を募るための視聴者争奪が始まる!?

 こうしてみると、ネットテレビにはさまざまなビジネスモデルが存在するのかもしれない。ただ、それにはとにかく、多くの視聴者がいることが前提になる。

 「これからの課題はリーチ。テレビとネットは比較にならないため、ネットでテレビほどの広告料金は取れない。ただ、『GyaO』のように1000万人ともなれば、大きな金額で売れるようになる」と、田中氏はいう。

 「GyaO」の登録視聴者数は、まもなく1000万人に到達する。当初の事業計画で、06年8月期までに最低400万、最高1000万人の獲得を見込んでいたことから、そのスピードは予想以上である。

 4月には、USENと業務提携を結んだライブドアが6月にも立ち上げるという動画サイトに、「GyaO」のコンテンツが提供されると一部で報道された。同時に、ライブドアの既存会員を「GyaO」に誘導する仕組みも築くといわれている。実現すれば、プラス数百万人の会員を一気に獲得することになる。事実、同25日にはモバイル分野でもライブドアと共同で新プロジェクトを検討していることを発表。「モバイルGyaO」と「ケータイlivedoor」との連携を進めていくことを明らかにした。

USENは3月16日、ライブドアと業務提携したことを発表。会見では、「GyaO」とライブドアのシナジー効果について語る場面もあった。それは具体化しつつある。

 空前の大ブームを予感させるネットテレビ。そのビジネスモデルは、「GyaO」や「Yahoo!動画」の人気次第でいかようにも変わるように見受けられる。藤原氏は、こうした動きはまだ始まったばかりで成功するかどうか白黒つけるのは時期尚早だと指摘する。いずれにせよ、通信と放送の融合によってもたらされる世界は、一視聴者として見ると、期待せざるを得ないものには違いない(全文は「月刊アイティセレクト」6月号に掲載)。

(※1)インターネット放送、動画配信などさまざま呼び方があるが、通信網を使った動画サービスで、基本的に無料のものを、「ネットテレビ」と称した。ただし、統一はしていない。

(※2)テレビ、新聞、雑誌、ラジオの4大マスメディアのこと。

(※3)いわゆる動画広告のこと。インターネット広告推進協議会(JIAA)が「インターネットCM」と定義し、3月に発表した。その内容を要約すると、インターネット(通信回線)上で映像と音声を使ってテレビCMのように時間軸で展開する広告となる。

(※4)簡単に説明すると、ある市場において上位20%を占める人気商品を「ヘッド」というのに対して、残りの80%を指す。図示すると、下図のように恐竜のような形になることから、「ヘッド」「テール」と呼ばれる。売り上げ的には、その上位20%で80%に達するといわれ、リアル店舗などスペースが限られるところでは上位20%にあたる商品以外で在庫を持たないのが鉄則とされた。だが、ネットでは残りの80%にあたる商品もそろえて、100%を目指して売ることができるようになった。その好例が、アマゾン・ドット・コムのビジネスモデルである。

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