魅力的で住みたい市とそうでない市は何が違う?驚愕の自治体事情(2/2 ページ)

» 2006年10月06日 08時00分 公開
[丸山隆平,ITmedia]
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ブランドはニーズを掘り起こすツール

 ブランド総合研究所は地域に対するコンサルティングを行っているが、田中氏は地域担当者が陥りやすい過ちに「ブランドは需要に対応している」という考え方があると話す。しかし、実際はそうではなく、ブランドはニーズを掘り起こすツールであり、現在の需要に対応していくことだけ考えていると価格競争に陥る、とそうした姿勢に警鐘を鳴らす。

 この点について同氏は観光地の宿泊施設を例に説明を続けた。「ホテルの営業政策は現在、かなりひどい状況にある。自社施設の良さを訴えるだけで、その地域全体の魅力を伝えておらず、その結果、狭いパイの食い合いになってしまっている」。

 返す刀で美術館などの各地の施設に対しても、「施設の案内だけが観光と思ったら間違いで、その場所でモノを見て、一緒に行った相手と何かをともに体験して、話をしてという楽しい経験があってはじめて旅の魅力が作られる」と指摘し、消費者に何ができるかを自治体が考えていかない限り、その観光地はダメになると厳しい意見を寄せる。

 「ほとんどの地域がそうした取り組みを行っていないために、観光地はどんどん疲弊化している。一方、うまく行っているところはそうした魅力をつくり出す努力を怠らない」として、一例として山口県萩市を挙げた。同氏によると、萩市は20代後半の女性を顧客としてターゲッティングし、例えば、写真をきれいに写せるスポットを市内に幾つか用意するなど、きめ細かな配慮を行っているという。

 「80年代まで盛んだった団体向けの古臭い観光の仕組みからいかに脱却できるか重要」

 同氏が挙げたもう1つの例は愛知県犬山市。同市の石田市長は体験型観光政策に力を入れているが、その政策は評価しつつも、「明治村という名前と犬山市が直接つながらないこと。もう少し、地域全体としての魅力を引き出す方向につなげつつ、地域全体にお金が落ちる仕組みを作ればもっと良くなる」と話す。

観光は新しいカタチに変わっている

 地方自治体にとって観光産業は極めて大きな比重を占める。ただ、観光は新しい形に変身を遂げていることに担当者はまだ気づいていないというのが、この調査からも浮かんでくる。田中氏はその好例として北海道旭川市の旭山動物公園を挙げる。年間200万人と来園客数は東京の上野動物園を超えるまでになり、旭川全体の集客につながっているという。

 もちろん、客が大勢来たが、イベントだけ見て帰ってしまうのではなく、食事をし、宿泊し、買い物をしてもらうといったお金の落ちる仕組みを用意しなければ、ゴミだけが落ちていくばかりで長期的にはマイナスにしかならない。

 交通事情が悪かった当時は、動員さえ成功すれば宿泊までひも付いて考えることもできたが、現在では東京でも1万円程度でおしゃれなホテルに宿泊できる。「なぜ、この汚くて、狭くて、食事のおいしくない場所に泊まらなければならないのか」という消費者が潜在的に持っている不満に地域振興の担当者は早く気がつかないと地域は死んでしまうと田中氏は強調する。

「住みたい」は“あこがれ”と“安心”から

 次に、「住んでみたい(居住意欲)市」を見てみると、「住んだ経験があるが住みたいという意欲が比較的少ない」というのが大阪市、名古屋市、川崎市。一方、居住経験はないが意欲はあるというのが鎌倉市、那覇市、沖縄市、函館市、仙台市、小樽市。経験もあり、意欲もあるというのが、横浜市、神戸市、京都市、札幌市、福岡市となっている。そのほかの市の半数以上は、居住経験と居住意欲についていずれもあまり明確なポジショニングができていない。

 この居住意欲はどのような要因に影響されているかを見ると、「あこがれる」「安心できる」「都会的である」「センスがいい」「親しみやすい」――などだ。魅力度では「情緒がある」、「ほかにない魅力がある」などが上位に来ているが、反面「あこがれる」は高くない。つまり、「居住意欲」と「魅力度」は必ずしも一致しないことを意味している。


 この調査は今後、毎年行われるという。今回の結果をふまえ、自治体がどれだけ本腰を入れて魅力ある都市作りを計画していくかは、次回以降のランキングで明らかになっていくだろう。

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