自治体は今こそIRに真剣に向かい合うべし驚愕の自治体事情

市場公募債に市場原理が導入されたことで、各自治体とも市場の評価を上げようと奮闘している。そんな中IRに力を入れ始める自治体も増えてきているが、まずIRページが存在しているかを確認してほしい。

» 2006年10月13日 08時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

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 自治体が発行する市場公募債にこの9月から市場原理が導入された。2006年10月債の発行条件を見ると、愛知県、千葉県、千葉市、熊本県、岐阜県、大分県などが1.8%、次いで静岡県の1.85%、大阪府や鹿児島県が1.9%。大阪市や北海道はこれを上回る2.0%となっており、金利の差という明確な形で自治体間の格差が現出しつつある。

 竹中平蔵元総務相の私的懇談会では、10年後の地方債の完全自由化と、地方債に対する交付税措置の全廃が提言されていることからも、市場から資金を調達する流れは今後間違いなくトレンドになると予想されるだけに、各自治体とも市場の評価を上げようと奮闘している。

 こうした状況を受け、投資家や金融機関向けに自らの財務状況を説明する「IR(Investor Relations)」に力を入れ始める自治体が急速に増えつつある。今年度は9月までの半期ですでに8自治体がIR説明会を開催しているが、昨年度のそれが13自治体であったことを考えると、その取り組みへの注力具合が分かる。

 こうしたIRに積極的に取り組んでいるのが川崎市だ。現時点こそ自主財源比率も高いものの、市営地下鉄である川崎縦貫高速鉄道の整備を控える同市もまた市場公募債を利用せざるを得ない状況にある。

 同市の打った手は早かった。投資家向けの広報活動の指針として「IRポリシー」を策定するだけでなく、「市起債運営アドバイザリーコミッティー」「市債投資家懇談会」を相次いで設置している。IRポリシーでは市の財政状況などを、将来のリスク関連情報も含めて伝えていくと宣言するなど、来るべき時代に向けた覚悟が見て取れる。

 ほかの自治体も腐心している。10月には、大阪市の関淳一市長が機関投資家向けにIR説明会を実施した。同市は年度内に1400億円の調達を予定しているが、市債残高が5兆円を優に越えているという事実は市場からネガティブにとらえられがちだ。そのため、財務面の改革をアピールし、そうしたイメージを少しでも軽減していく必要に迫られている。これは大阪府も同様で、事実、府もIR説明会を開催しているほか、太田房江知事自らが大手行頭取を訪ねて行革の現状を説明するなどしている。

取り組むべきはIRページ

 これまで自治体がIRに積極的でなかったのは、地方債資金における政府資金の割合の高さ、裏を返せば財務戦略上、市場に対してIRを行うことに対する見返りが低かったことに一因がある。しかし、前述のように、市場からの資金調達が今後重要なポイントとなることを考えると、投資家の判断を見誤らせるようなことがあってはならないため、IRへの積極的な姿勢が問われてくることになる。

 また、市場における外国人投資家の比率が高まっていることも考慮する必要がある。米国の有力債券格付け機関スタンダード&プアーズが、神奈川県横浜市に対し、「AA-」の長期発行体格付けを付与したことはその意味で象徴的な出来事であると言えるが、IRについても、国内の機関投資家のみを対象とするのではなく、少なくとも英語、可能であれば多言語で行うことが求められよう。

 そうすると、説明会の開催以上に必要な取り組みが見えてくる。年に数回開催するのがやっとであろう説明会に、すべての投資家が参加することが現実的に不可能であることは言うまでもない。適宜必要な情報を提供し、かつ双方向のコミュニケーションを図っていくためには、やはりインターネット上、つまりは自治体が持つホームページ上にそうした情報を掲載する「分かりやすい」IRページを早急に整備していくことが、長期的には潜在的な投資家の取り込みにも有効に機能すると思われる。

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