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» 2006年12月15日 08時00分 UPDATE

次世代ITを支える日本の「研究室」:何千年分の処理を数時間で――夢の超高速量子コンピュータの世界 (1/3)

理化学研究所では、現在のコンピュータとは比較にならないほどの高速処理を実現する「量子コンピュータ」の研究を進めている。RSA暗号を無効化してしまうといわれる超高速コンピュータには、量子力学的原理が活用されている。

[増田千穂(エースラッシュ),ITmedia]

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 「量子コンピュータ」という言葉を聞いたことがある方は多いだろう。現在のコンピュータと比較して、非常に高速な処理能力を持つ未来のコンピュータとされているものだ。

 だが、「コンピュータの処理速度なんて時代とともにどんどん高速化するもの」と考えている人は少なくないだろう。実際、10年前のコンピュータとは比べものにならない処理速度を持つパソコンが、ごく普通に量販店で売られている時代だ。しかし、量子コンピュータの処理速度はそういったレベルの話ではない。このまま時間が経てば、いつかたどりつくというシロモノでもない。今のコンピュータが何千年もかけて解く、複雑きわまりない難問をわずか数時間程度で解いてしまうもの。いうなれば、これまでの常識を覆す構造を持った「夢のコンピュータ」、それが量子コンピュータである。

 量子コンピュータの研究は世界各国でも進められているが、もちろん日本の研究所での活動も目覚ましいものがある。そのうちの1つが、理化学研究所のデジタルマテリアル研究チームだ。

原子レベルに到達した集積回路はコントロール不能になる

 コンピュータの処理速度の高速化といえば、あの「ムーアの法則」を思い浮かべる人が多いだろう。1965年に、インテルの創設者の1人であるムーア博士が提唱したもので、「半導体の集積密度は18〜24カ月で倍増する」という理論だ。

図1 ムーアの法則では、トランジスタ数の増加に伴い、プロセッサのパフォーマンスは一貫して向上(出典:インテル)

 過去から現在に至るコンピュータの処理性能向上の多くは、半導体の集積密度の向上によって行われてきた。「ムーアの法則」は多少のズレこそあれ、大体の範囲で成立してきた。しかし、このまま集積密度が進んだ場合、ムーアの法則に従うと2010年代にはついに原子レベルにまで到達してしまうのだ。

 技術的に、それほどまでに微小になったものを操作するのは難しい。だが90年代前半には、すでに原子をつまんで並べるという実験そのものは各所で成功していたのである。では問題は何か。それは、そこまで微細な世界になってしまうと、現在のコンピュータを動かしている「常識」が通じなくなってしまうことだ。

図2 1989年、ドン・アイブラー博士がSTM(走査型トンネル顕微鏡)での原子操作に成功。35個の原子を並べて「IBM」の文字を作る

 例えば、一斉に電流を流すとこのような効果が出る、といった理屈が通らなくなる。あまりに微細な世界ゆえに、従来の常識的な因果律では予測できない結果が出てしまう。これを「量子力学的効果」という。

画像 理化学研究所 フロンティア研究システム単量子操作研究グループ デジタルマテリアル研究チーム 客員研究員の丸山耕司氏

 現在、これ以上の集積回路の高密度化を進めても性能向上が難しいという見方から、CPUメーカーはコアを複数搭載してCPUの性能向上を試みる動きが活発になっている。しかし、マルチチップ化もいずれは行き詰まり、その先に何があるのかは分からない。

 「このまま手をこまねいていると、2010年代には量子力学的効果が現れ始めるのは目に見えている。従来の因果律が通用しない、量子力学の世界の集積回路はどうなるのか、うまく乗り越えることはできないのかといった問題に直面した」と語るのは、理化学研究所のフロンティア研究システム単量子操作研究グループで、デジタルマテリアル研究チームの客員研究員である丸山耕司氏だ。技術的には原子を扱うこともできるようになっている今、どのようなアプローチができるのか。それが、量子計算研究が始められたきっかけの1つだと話す。

 未来のコンピュータは、現在の構造を踏襲しながら発展するものではないとしながら、決して現在のコンピュータの動向と無関係ではないというのが丸山氏の考えだ。

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