インタビュー
» 2007年01月15日 08時00分 公開

Open Source People:まつもとゆきひろ――第3回:僕の存在価値はそこにある (4/4)

[風穴 江,ITmedia]
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―― では、まつもとさんの3年後、10年後というのは、どうなっていると考えていますか?

まつもと 3年後だと、その次のRubyとかをやっていそうですね。

―― 2.0ですか?

まつもと 2007年に出すやつの次(笑)。2.0の次かもしれないし、1.9の次かもしれない。名前は分からないけど。

―― その次のRubyを、相変わらずやっていると。

まつもと やっていると思いますね。しゃべったり、文章を書いたりしながら、細々とやっているんじゃないかなと。

―― 3年後は「Rails景気」が最もっと盛り上がってるかもしれませんよね。

まつもと それは十分にあり得ると思いますけど、でも、それによって僕自身はあまり変わらないかな。

―― 自分に対しては、あまりインパクトがあるとは想像していない?

まつもと 僕の生活はそんなには変わらないんじゃないかな。

―― それは、結果として変わらないということでしょうか。それとも、流行ったとしてもあまりかかわりたくないというか、自分は変わらず、やっぱり今のようなことを続けていきたいということなんでしょうか?

まつもと 変わらないと思っている方が強いですね。というのは、Railsで仕事が増える人たちは増えると思いますし、うちの会社のビジネスも、できればもっと良くなってほしいですけど、だからといって、じゃあ僕がどうこうという話には直接にはつながらない。例えば、今より講演が増えたりするとか、インタビューが増えたりするということはあるかもしれない。今でも十分に多いけど(笑)。11月だけで新聞に2回出たりとかね。でも、むしろ、消費されてしまう方が怖いかなという気がします。

―― 消費とは?

まつもと 一部の芸能人みたいに、一時的に露出が増えたのはいいけど、その後はガクンと減るということですね。あまり変化しないで細々とやった方がいいんじゃないかなという気はします。細く長く、と。

この机から次は何が生み出されるのだろうか

―― 10年後は?

まつもと 10年先のことは考えないタチなんですよ。10年前に、何か今のようなことを考えたかというと、全然考えていなかったので。10年後ねぇ……、できれば今の延長線上でいたいなと思っています。

―― そうすると今の状況は悪くないというか、ご自身なりには快適な……

まつもと そうですね。でも、10年経ったらだいぶ老人力が強くなってくると思うので(笑)、若い人と一緒にディスカッションしながら作っていった方が良いものができるとか、そういうことはあるかもしれないですね。いままでは、ずっと自分一人でデザインしてきたところがあったので。もちろんいろいろな人の新鮮なアイデアによってRubyが進歩したということは確かにあるけど、誰かと相談しながらデザインとかいうようなことはほとんどしていない。将来、そういうのがあった方が良くなるような時期が来るのかもしれない。それって今のラリー・ウォールみたいな立場なのかなぁ。

―― 将来的にやりたいということは何かありますか? 大学で教えてみたいとか……。

まつもと あまり教育には関心はないかな(笑)。例えば、1回教えるとか、集中講義で教えるというのは結構面白いけど、でも大学の教員というのは一生懸命教育しないといけないので、そういうものよりは、やっぱり何か作っていたいなという気がします。

―― アラン・ケイのように子どものプロジェクトにかかわりたいとか……そういうのは?

まつもと アラン・ケイは、最初から子どもにすごい関心が高いですよね。僕はプログラマーにしか感心がないので(笑)。プログラマーを育てたいというのは思うかもしれないですね、将来。子どもじゃなくて(笑)。

―― プログラマーを育てたい?

まつもと 僕自身は、現時点では、プログラマーの負荷を軽くしたいといつも思っていて、それはRubyを作ったり、直したりするときの原動力になっているところがあります。たぶん、何かツールを提供するというような形で、間接的にプログラマーのお手伝いをしていきたいとは思っています。

―― それは、プログラミング言語以外のソフトウェアという可能性もある?

まつもと もし僕に、ほかの人よりもうまくデザインできるものがあれば、それはやってみたいですけど、今は何も思いつかないので(笑)。たいがいのものは、僕よりもっとうまくできる人がもうやってますよね。僕が何か、これはうまくいきそうだと思うものがあれば手をつけるかもしれないけど、現時点では思いついていないという。

―― そういえば、大学院に行かれてましたよね?

まつもと 島根大学の大学院に所属していました。2006年3月で後期課程の3年が終わったのですが、それまでに論文を1本しか書けませんでした。学位をもらうには3本は必要で、あと3年ぐらいの間に、あと2本書いたら審査してあげますといわれていますが、どうもこのペースだと、書けそうにないなと(笑)。めでたく単位取得退学です。

―― 論文を書くということにはあまり興味が持てない?

まつもと 僕が得意なところというのは、プログラミング言語をバランス良くデザインするというところなので、学術的な観点から言うと価値は低い(笑)。

―― 確かに、アカデミックな人にとっては、ちょっと目指しているところは違うかもしれない(笑)。

まつもと もともとこっちの方がいいといっても、根拠が何もないんですよね。「みんな、いいって言ってますから」では、ぜんぜんダメですからねえ、この世界では。一番得意なところでは論文は書けないので、そうすると、得意じゃないところで論文を書かなくちゃいけないのですが、それにはやる気の維持という最大の課題があるという……(笑)。

―― そうすると、やっぱり、プログラマーというか、プログラミングが一番好きだと。

まつもと プログラミングで評価してくれたら……。まぁ、今でも十分評価してもらっていますので、それはそれでいいかな。でも実は、僕はプログラマーとしてはたいしたことはないんですよ。例えば、誰かがRubyを実装し直したとしたら、いまのRubyよりもずっとエレガントで速いものができるはず。そういう観点からすると、あまりプログラマーとしてもたいしたことはない。天才プログラマーとか言ってくれる人はいますけど、それはどこを見てそうなんだ、言ってみろ、と問いたい(笑)。

―― 自分よりももっとエレガントにコーディングできる人はたくさんいる、と。

まつもと そうですね、性能の高いプログラムを書ける人はいるでしょう。まぁ、でも、そういう人たちにはRubyは作れなかったわけで。その辺に僕の存在価値があるのかなと。

―― それはやっぱり、楽しいプログラミングを目指した言語デザインの感覚というのが……

まつもと あったんでしょうね。

―― それが、まつもとさん自身の強み……

まつもと 強みなんでしょうねぇ。僕は、自分では自分に才能があると思っているわけではないのですが。Rubyはたいして性能がいいわけでもないのに、使いやすいといって使ってくれている人が多い。それはつまり、僕が言語設計者としてやってきたデザインが正しかったからなんだろうなぁとは思います。Rubyにおけるたくさんのデザイン上の選択で、もちろん全部が正しかったわけではないのですが、正しい選択をする割合がほかの人よりも高かったということなんだろう、と。僕とほかの人の違いというのは、そこなのかなぁ、と。あまり自覚はありませんけどね。



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