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» 2007年05月16日 07時16分 UPDATE

まつもとゆきひろのハッカーズライフ:第3回 ハッカーと仕事 (2/2)

[Yukihiro “Matz” Matsumoto,ITmedia]
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 考えられる選択肢は幾つかあります。すぐに思いつくのは以下のようなものでしょうか。いずれも実際に行われている選択肢です。

  • フリープログラマーになる。仕事をする期間と「ハックする」期間を明確に分ける
  • 上司を説得してハッカーというものを理解してもらう
  • ハッカーに対して理解のある職場に転職する
  • 起業する

 フリープログラマーというのは安定性に欠けるのが難点ですが、自分の思いどおりの仕事ができます。ただし、自分で仕事を見つけるためのコネクションが不可欠ですし、自己管理能力も求められます。ハッカーには、自己管理能力の弱い人が多いようにも思われますが。

 上司を説得した例としては、WideStudioの平林さんがいらっしゃいます。彼はIPA*の「未踏プロジェクト*」に応募し、スーパークリエーター*に認定されることで上司に理解してもらい、自分のハックの成果(=WideStudio)を仕事として認めてもらうことに成功しました。このように、未踏プロジェクトを利用して自分のハックを世に認めてもらった人は多いようです。

 わたし自身は、転職によって居場所を見つけました。1997年に現在の職場であるネットワーク応用通信研究所に転職したわけですが、転職の際には「Rubyの開発者」として採用していただきました。この会社はハッカーの扱い方を心得ていて、居心地の良い職場環境を提供してくれています。おかげで転職以来8年間、快適に仕事をさせてもらっています。ハッカーの多くは経済的成功への野心が少なく、食うに困らない収入があれば、適当に面白い仕事と技術的チャレンジ、およびほかのハッカーとの良好な交流があるだけで満足します。ハッカーの生産性は「普通の技術者」の数倍から数十倍に相当しますから、会社にとっても十分にお得なわけです。また、有名なハッカーには企業の看板、あるいは広告塔としての働きもありますから、そこでも有効に活用できます。

 ハッカーと言ってもいろいろな種類の人間がおり、中には野心のあるタイプの人もいます。プログラムをハックするというよりも、技術を生かして社会をハックするといった感じでしょうか。ベンチャー文化が発達した米国では、ハッカーによる技術を前面に押し出したベンチャービジネスが幾つも見受けられます。成功して大金持ちになるハッカーもいるわけです。例えば、Lispを「秘密兵器」としたViaWebというインターネットショッピングASP事業で成功した(『ハッカーと画家』*の、と言った方が有名でしょうか)Paul Graham氏、Netscape Navigatorのリードプログラマーとして有名なMark Andreessen氏などがいます。あまり起業とかベンチャーが盛んではない日本では目立った「起業ハッカー」はいない*のですが、日本の将来のためには社会が変化して、このようなハッカーがどんどん出てくるようになった方が良いのではないかと思います。

Win-Winの関係

 ハッカーは悪い側面だけが強調されてしまうと、社会適合性の欠けたただのぐうたら社員ということになってしまいます。けれども、ハッカーたちは、実は優れた生産性を持つプログラマーであるだけでなく、新しい技術への鋭敏なアンテナの持ち主でもあります。このような人材は、活用の仕方によって企業の「秘密兵器」になり得るのではないでしょうか。ハッカーは知的好奇心を満足させるプロジェクトや住み心地の良い環境を手に入れてハッピー、企業は優れた生産性を活用して業績を上げてハッピー、という構図が一般的になると良いのですが。

このページで出てきた専門用語

IPA

情報処理推進機構。経済産業省所管の独立行政法人。情報処理技術者試験や各種支援事業を行うほか、セキュリティ情報の提供を行うJP-CERTの運営も行っている。

未踏プロジェクト

正式名称は「未踏ソフトウェア創造事業」。いままでにないソフトウェアの開発を行う個人の発掘を主眼とした事業。わたしも2000年度(第1回)で採用されている。

スーパークリエーター

未踏プロジェクトで目覚ましい成果を上げた人に対してIPAが授ける「称号」。未踏プロジェクト採用者全員に与えられるわけではない。ちなみにわたしはもらっていない。

『ハッカーと画家』

オーム社から翻訳書が発行されている。

目立った「起業ハッカー」はいない

元オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)CTOの小飼弾さんは、日本における例外的な起業ハッカーかもしれない。彼の日本人的でないセンスのおかげだろうか。


本記事は、オープンソースマガジン2005年6月号「まつもとゆきひろのハッカーズライフ」を再構成したものです。


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