(4)の冗長回線用インパス構成について、センター側であれば冗長回線となっていることが多いが、拠点側も冗長回線となっているケースもある。後述する(5)も冗長回線にそれぞれWAN高速化装置を導入する構成であるが、小規模拠点に2台の装置を導入するのではコストが掛かりすぎる。このような場合は、1台のWAN高速化装置で冗長回線を高速化できる装置を選択する。
通常のバイパスカードでは、WANポートとLANポートの2ポートというのが一般的だが、4ポートカードを使用すれば冗長回線を高速化できる。WANポートとLANポートを1セットとして扱うと、4ポートカードでは2セットのインタフェースが使用できることになるため、1台のWAN高速化装置で2台分の効果が得られる。もちろん、キャッシュも共用可能であり、主回線からバックアップ回線に切り替わった場合でも高速化の効果が落ちることはない。一般的に主回線よりもバックアップ回線の方が細い場合が多いことから、バックアップ回線でも高速化できる方がよりWAN高速化の効果が得られる。
この構成のメリットは、冗長回線の環境でもWAN高速化装置1台で高速化を図れるため、バックアップ回線に切り替わった場合も高速化を維持できる点にある。逆に、カードが1枚であるため、カードが故障すると両回線ともに高速化できなくなる点がデメリットだ。この点では装置を冗長化するよりもリスクが大きいが、機種によっては2ポートカードを複数枚導入できるものもある。
最後の(5)の構成は、(4)と同様に冗長構成であるが、ここでは主回線やバックアップ回線という区別なく、どちらの回線も同じように使用される。例えば、2つの回線をA回線とB回線に分けるならば、A回線で入ってきたパケットに対する応答がB回線から出ていくようなことが発生する。そうなると、A回線とB回線に接続したWAN高速化装置のそれぞれをパケットが通過することになり、入と出が分散されてしまい高速化ができなくなってしまう。
非対称ネットワークでインパス構成を検討する場合には、2台の装置間でコネクション情報を共有するような機能が必要となる。ただし、非対称ネットワークでは無理にインパス構成にする必要はなく、WCCP/PBRなどで論理インパス構成にすることで通信のコントロールを行うことが可能だ。実際に、PBRを使用した非対称ネットワークの導入事例もある。
WANを介してアプリケーションを使用しているユーザーに、「遅い」と感じているところをいかにして「速くなった」と感じてもらうか。これが、WAN高速化装置に求められるすべてであろう。そのためには、WAN高速化装置の機能だけではなく、ネットワーク構成、サーバの配置(統合か分散か)やアプリケーションの使い方などに関する理解が必要だ。
WAN高速化装置には得手、不得手があることはすでに説明したが、ここで重要なのは、WAN高速化装置が夢の箱ではないということである。WAN高速化装置を導入すればすべてが高速化できるわけではない。したがって、各ベンダーからリリースされているWAN高速化装置の実力を十二分に理解した上で、それをユーザー環境にどのように適合させていくかが非常に重要なプロセスとなる。
言い換えれば、WAN高速化装置はいろいろな視点から評価することができる。今回の解説ですべてを網羅したわけではないが、読者の製品選択における一助になれば幸いである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.