あなたのケータイやブログは大丈夫か――ネット時代の著作権考(1/2 ページ)

著作権に関して、少々騒がしくなってきている。現行の著作権法が制定されてから37年。iPodによって開花したモバイルでの音楽再生、ブログによる引用問題、デジタルであることがコピーを容易にした一方で、著作権問題を複雑化させた。

» 2007年06月27日 11時05分 公開
[森川拓男,ITmedia]

 自分のブログを持っている人は、いま一度見直してもらいたいことがある。それは、あなたのブログが著作権侵害を起こしていないか、という点だ。著作権に関する動きが活発化している現在、ブログと著作権について考えてみたい。

 その前段階としてまず、とある裁判の判決を見てみよう。

ストレージは著作権法違反か?

 去る5月25日、東京地裁でとある裁判の判決が出された(関連記事)。これは、「オルタナブログ通信」でも取り上げたが、自分で購入したCDなどの楽曲をインターネット経由で業者のサーバに置き、それを自らのケータイに取り込んで再生するのが著作権侵害にあたるのかどうか。これが、この裁判での争点である。そして高部真規子裁判長が下した判決は、「著作権侵害にあたる」というものだった。

 判決文の全文は、裁判所のWebサイト上にPDF形式で公開されているので、興味がある人は目を通してほしい(判決全文別紙)。

 事件名は「著作権侵害差止請求権不存在確認請求事件」。何やら舌をかみそうな名前だが、言い換えると、被告側(日本音楽著作権協会。以下、JASRAC)には、原告側(イメージシティ。以下、MYUTA)に対し、「著作権侵害なので差し止めるように」と請求することができないことを確認するという裁判である。

 これに対し発表された判決は、「原告の請求を棄却」し、「訴訟費用は原告の負担とする」という、原告敗訴であった。つまり、今回争点となったイメージシティのサービス「MYUTA」は著作権侵害であり、JASRACには差止請求権があるとお墨付きを与えたのである。

 これを受けて、ほかの類似サービスにも同様のことが言えてしまうのではないか? と、一部で騒ぎになったのだ。MYUTAのようなストレージサービスはたくさんある。Webページやブログを無料で作成できるサービスにも、ファイルをアップロードすることができるため、同様のことがあてはまるだろう。この結論だけを見れば、そう考えても不思議ではない。

 しかし、このケースにおいては、少し様相が異なる。裁判の判決文というのは、結論である「主文」のほかに、なぜそうなったのかを説明する「事実及び理由」の個所がある。判決文のPDFファイルは39ページにも渡るが、そのうち「主文」の中身は2行であり、残りの38ページ強は「事実及び理由」にあてられている。

 この判決文には、「本件サービスでは事情が異なり」として、ほかのストレージサービスと異なる点が明記されている。それは、「原告が提供する本件ユーザソフトを利用しなければ、本件サーバにアップロードすることはできない」点、そして「このファイルを(サーバの)ハードディスクに蔵置するために行うファイル処理や携帯電話に配信できる形式にして送信する処理は」MYUTA側が行い、「ユーザはこれらの著作物の複製や送信に関する処理にいっさい関与することはできない」としている点だ。

 つまり、複製した主体はユーザーではなくMYUTA側にあり、著作権を侵害していると断じたのである。

 一見、今回の判決は特例であって、ほかのストレージサービスには影響がまったく及ばないようにもみえる。しかし筆者は、この判例が拡大解釈されるとヤバいなと思っている1人なのだ。

 実は今回の判決にはこのような一文もある。

 「楽曲の音源データとして、音楽CDなどから、3Gファイルを作成すること自体は、フリーソフトなどを使うことによっても可能であるが、これをユーザーが個人レベルでそのような機能を一般的に持たない携帯電話に個別に取り込んで再生することは、技術的に相当程度困難である。」

 さて、これを読者はどのように思うだろうか。この「技術的に相当程度困難」は、案外早期に解決してしまうかもしれない。実際、筆者のケータイにおいても、ケーブルをつなげてCDから音源を取り込むことは、有料ではあるが行うことができる。つまり、すでにこの前提は崩れているといっても過言ではないかもしれないのだ。

 さらに「自動公衆送信行為の該当性について」という項目が拡大解釈されれば、あらゆるストレージサービスにも当てはまってしまう可能性が否定できない。動画ファイルをアップロードして公開できるブログサービスも同様だ。

 そもそも多くの裁判官はコンピュータの専門家ではないので、このあたりの線引きがどうなるのかどうか、今後しっかりと見ていく必要があるだろう。

著作権法とは?

 6月15日、「著作権保護期間延長問題を考えるフォーラム」が開いたシンポジウムで、パネルディスカッションが開催された(関連記事)。デジタル処理によるコンテンツの複製が容易になり、一般ユーザーが手軽に配信することが可能になったいま、著作権はどうあるべきなのかを議論したという。

 「著作権法」とはいったい何なのだろうか。普通に考えれば、作品などを作った人の権利を守るための法律である。文章を書いた、絵を描いた、曲を作った……それぞれの作品を守る必要があるからだ。しかし、ことはそう簡単ではない。それぞれの作者が、そんな煩わしいことに、いちいち関わってはいられない。そこに、JASRACなどのような中間業者が登場してくる。さらに、1つの作品であっても、必ずしも著作権者が1人とは限らない。複数の人物が関わるものも多いからだ。こうなってくるとその権利関係は複雑怪奇になっていく。

 さて、現在の著作権法が制定されたのは、1970年5月6日のことである。いまから37年も前のことだ。もちろん、その後も必要に応じて改正は続けられており、昨年12月22日の改正分は、この7月1日より施行されることになっている。つまり、著作権法は時代の要請に応じて、いや「著作権者の要請に応じて」、改正を繰り返してきた。そう、著作権法はこれまで、「権利者保護」のためだけに改正され続けてきた経緯があるのだ。

 しかし、土台そのものが古くなり、制定時には考えられなかったネット環境が整備されてきた現在、小手先の改正だけでいいのかどうか、疑問は残る。

著作権侵害の非親告罪化は問題か?

 そんな中、著作権法の「非親告罪化」が、少し前に話題になった。

 著作権法は親告罪である。つまり、著作権を保有する側が、著作権法に違反していると訴えて初めて、法律違反となる。

 しかし、著作権法が制定されてから40年弱、著作権を取り巻く環境も大幅に変化した。ネット上などに出された著作権侵害を発見するのも一苦労だ。そこで、これは著作権侵害ではないかと、権利保有者以外でも告発可能にするのが、非親告罪化である。なお、あくまでも諮問機関で話題に上っているだけで、まだ法案が提出されたわけではない。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ