コンテンツがデジタル化して複製が容易になり、一般ユーザーでもネット上に手軽に発信できる環境が整う中、著作権が、一部のコンテンツホルダーだけでなく、一般ユーザーの生活にも深く関わり始めている。
例えばYouTube上には、一般ユーザーの手によって、テレビ番組などの動画が無断でアップされてたくさんの視聴者を得ている。これは著作権侵害だが、YouTubeに掲載されることで面白い番組が“発見”され、むしろ視聴率が上がるというケースもある。「ニコニコ動画」や「はてなセリフ」など、既存のコンテンツの上にユーザーがコメントを書き入れることで新たな創作が生まれる仕組みも“発明”されている。
同人誌の世界でも、既存コンテンツの2次創作――著作権侵害に当たるケースも多い――と、2次創作出身のオリジナル作家出現という微妙なバランスが保たれている。
一般ユーザーが簡単に作り手になれるいま、著作権はどうあるべきなのか――「著作権保護期間延長問題を考えるフォーラム」が6月15日に開いたシンポジウムで、パネルディスカッションが行われた。
参加したのはビデオジャーナリストの神田敏晶氏、法政大学社会学部准教授の白田秀彰氏、小学館キャラクター事業センター長の久保雅一氏、漫画評論家の伊藤剛氏。コーディネーターは国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員の鈴木謙介氏が務めた。
小学館でキャラクタービジネスを手がける久保氏は、YouTube対策の苦労話を披露する。「小学館の作品も、1日100件以上削除要請していて大変な労力がかかっている。日本のコンテンツがDVD化よりも先にYouTubeに出てしまうから、海外でDVDが売れなくなっている」(久保氏)
「ただYouTube側を利用したビジネスも出てきているし、YouTube側は“エログロ”なら自動で削除する仕組みをすでに持っている。著作権問題もテクノロジーで解決できると思っている」(久保氏)
自らが出演するテレビ番組「BlogTV」のコンテンツをYouTubeで無料発信している神田氏は、「YouTubeを利用すれば、リアルタイムでなくても、放送エリア外でも見てもらえる」とメリットを述べつつ、「著作権を主張する人たちは本当に著作物を守りたいのだけなのだろうか。お金を守りたいだけじゃないのか。そうならそう言ってくれればいいのに」と疑問を呈する。
「神田さんの言う通りで、権利者はお金を守りたいだけ」――白田氏は神田氏に同意し、自らの著作権論を披露する。「著作権制度はお金の問題“だけ”を駆動力に展開してきた。久保さんが言うように、権利者側は商業的作品のパーフェクトコントロールが得られるなら、それが法律によるものでもテクノロジーによるものでも構わないと思っている」
英米の著作権法を研究してきた白田氏によると、著作権は、クリエイターの権利というよりは、ユーザーの権利を制限する仕組みだ。もともと、一般ユーザーが家庭内で著作物を利用するのは自由で、言論・表現の自由の下で守られていたのだが、19世紀半ばごろに状況が変わった。
一般ユーザーでも利用できる複製技術が普及し始め、家庭内を装って商用の著作物の複製などが行われるようになったため。権利者が自らの権益を守るため、家庭内での複製行為も規制するよう訴え続けて法改正が行われ、著作物が強力に守られるようになったのだ。「著作権法は毎年のように改正されており、保護される対象は増え続けている」(白田氏)
権利者の権利が拡張を続け、ユーザーの権利が極端に制限されている現状を打開するため、「権利者側が金もうけしたい商業作品は、登録させてガチガチに守るが、そうでないものはベルヌ条約のミニマムで守ればいいのではないか」と白田氏は述べ、ジョークを交えながら具体例を披露する。
「以前知財戦略のパブリックコメントに冗談で出したのだが、強力な権利を要請する外国作品については、不法所持を逮捕要件にすればいい。麻薬と同じで、例えばディズニーの“パチモン”を持っていると逮捕する。すると外国コンテンツが力を落としていって、国産コンテンツ振興に非常に効果がある」
つまり、商業作品は登録制にして2次創作の余地がまるでないようにしてしまい、それ以外の作品はもっと自由に利用でき、2次創作にも使いやすくすれば、2次創作の可能性が広がる。2次創作が増えれば、2次創作を経由してオリジナル作品を作るクリエイターも増え、文化の発展につながる――という考え方だ。
「最初はファン活動から始まり、パロディ作品(2次創作)に至るだろうが、その後オリジナル作品を作るよう誘導する制度を作る努力をすべき。オリジナル作品を作る後進が出てこないなら、著作権法の趣旨に反する」
白田氏はさらに、YouTubeにテレビ番組をアップする行為は「他人の作品をタダで見るような下品なこと」と斬り、オリジナル作品を発表することの意義を説いた。
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