ヤフーや楽天のようになる必要はない…Webマスターが変える 企業サイトの「秘力」

少ない訪問者を顧客として育てるために企業サイトはどうあるべきなのか。そのためにWebマスターは何をすべきなのか。先達の施策に見る――。

» 2007年07月06日 06時00分 公開
[アイティセレクト編集部]

 石油大手のX社は、新しくWebマスターを置き、自社サイトのリニューアルに取り組んだところ、予想以上に多くの「訪問者」を迎えることに成功した(7月2日の記事参照)。

 では、「石油会社のWebサイトに訪れる人」とはどんな人だろうか。極論を言えば、その会社あるいは石油関連のことに、よほど必要性か関心がある人だろう。

企業サイトが持つ宿命と本来の役割

 この推論は、なにも「石油」だけに当てはまるものではない。「企業サイトの宿命は二つある。訪問者が集まりにくいことと、それでもやってくる訪問者は何か知りたいことがあること」(X社のWebマスターであるR氏)というのが、実情なのだ。そのため、せっかく来てくれた訪問者は、手厚く「接客」する必要がある。さもなければ「顧客」として定着はしない。だが、「ほとんどの企業サイトはもてなしを忘れている」と、R氏は指摘する。

 X社でのリニューアルは、「初対面」の人には優しい、リピーターには居心地のいいサイトになることを目指したものだった。それはつまり、ユーザビリティが高く、特定の分野に強くなるということ。そこから、信用性を高めていくことを考えた。

 「この人に聞けば教えてくれる(=このサイトに来れば分かる)というもので、それも分かりやすいものであれば、お互い(=訪問者とサイト側)の間に信頼感が生まれる。リピーターにとっては、安定した回答がある場所となる。そうした関係をつくれれば、訪問者にとって『寄り道』したい、発信者側にとっては見てもらいたいサイトとしての『下地』ができるだろう。そのため、この部分は必ず充実させなければならない」(R氏)

 こうした視点は、さまざまな企業のWebマスターの間で共通認識となっているようだ。本田技研工業の日本営業本部宣伝販促部ホームページ企画ブロックでブロックリーダー営業主幹を務める渡辺春樹氏もその一人である。「企業サイトは信頼性が大事。目的がないと来ないので、人を集めるのが難しい。その中で来た人を大事にし、自分たちのビジネスに役立てるのが、企業サイトの本来の役割。何もヤフーや楽天のようになる必要はない」と、ある講演で語っている。

進化するネット時代に見るWebマスターの将来像

 「人は目の前にいない相手に厳しい要求をしがち。インターネットでは『顔』が見えないので、閲覧者はサイト側に非常に厳しい要求をする。もっとユーザビリティを上げろ、という具合に」――R氏は常々こう思っている。そして、将来的には「24時間対応のサイト案内」が求められるようになるという。

 また、いずれテレビ番組(動画)を検索サイトで探す時代が来ると予想している。すると、動画全盛の波に企業サイトも飲み込まれる、とも。つまり、企業サイトに動画があふれ返るということである。「Webマスターはテレビプロデューサーのようにきちんと企画をたて、人を引きつけて逃がさない動画コンテンツをつくらねばならなくなる」と、R氏がいうように、Webマスターの役割は大きく変わるかもしれないのだ。

 消費者のメディア接触の形態が従来のテレビを中心としたものから大きく変化していることは、テレビCMだけでは(マーケティング活動は)足りなくなることを意味すると、食品大手Y社のWebマスターであるS氏は分析する。その変化の中で、ロイヤルカスタマーとコミュニケーションをとっていくには、Webサイトは必要不可欠な存在になるという。

 電気通信大手Z社のWebマスターT氏は、「Webサイトは企業にとって(サーバーなどの)有形資産というだけではなく、すでに無形資産として非常に大きな経営資源になっている。従って、横並びではいけない。各企業の強みをそこで生かし、経営・収益に貢献するようにしなければならない」と語る。Webマスターの仕事は企業価値を創造すること、というのである。

 渡辺氏はこうも言っていた。「Webマスターというのは、単にシステムのことだけ、あるいは宣伝のことだけを知っているのではダメだ。広報も、ブランドも…さまざまなことを知っていなければならない。ただ、そんなスーパーマンは実際にはいないので、できることからやっていく必要がある」(「月刊アイティセレクト」8月号の特集「『持ち腐れ』の企業サイトに喝! Webマスターが変えるマーケティングの底力」より。Web用に再編集した)

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