果たして情報共有を成功させるか動き始めたWeb2.0の企業活用

Enterprise 2.0が生み出す世界は、まるで“タバコ部屋”のようとか。その「緊密さ」がプラスに働く半面、課題となるマイナス要素も……。

» 2007年09月28日 06時00分 公開
[富永康信(ロビンソン),アイティセレクト]

常に情報を発信する人はたった1割

 「1:9:90」の法則は、インターネット上で情報流通が行われる構造の比率といわれている(9月27日の記事参照)。1%は、自ら情報を発信し多くの人々の注目を浴びる欲求原理を持つ人たちで、パワーブロガーなどが該当する。その情報に群がって、コミュニケーションを取るのが9%の人々で、承認欲求や社会とのつながりを喜びとするコミュニケーター。コアなmixiユーザーのような人たちをいう。残りの90%は、情報は受動的に摂取するものと考えており、10%の人たちが発信した情報を一方的に消費する。

 つまり、常に情報を発信する人は1割に限られる。そのため、残りの9割の社員が情報発信したくなるような情報流通設計を考えることが必要だと、マイネット・ジャパン代表取締役社長の上原仁氏はいう。

使いたくなる情報共有ツール

 上原氏は、Web2.0のフラットで垣根が無い世界観をビジネスに取り入れようとするのがエンタープライズ2.0の基本的な考え方であることから、まさに“タバコ部屋(=喫煙ルーム)”でのコミュニケーションがWeb2.0の縮図であると分析する。「情報共有が企業の永遠のテーマであり続けるのは、部門や上下関係も異なる人が集まって、フランクに会話することができるタバコ部屋のような環境が企業組織ではつくりにくかった」と。

 そこで、同社はソーシャルブックマークとソーシャルニュースを融合した「イントラnewsing」を開発。[ナレッジ共有+ディスカッションツール]の機能を盛り込み、デキる社員が紹介した社内外のニュースや提案を、ほかの社員が○×投票やコメントで評価できるようにした。それをランキング表示し、受動的だった社員の参加を促して、皆が使いたくなる情報共有ツールを提案している。

2.0になっても残る課題

 しかし、Web2.0系テクノロジーは、SECIモデル(9月27日の記事参照)で定義するところの、暗黙知の表出化(気づき、共有)や共同化(ほかの経験との関連付け)に優れているが、文書資産などの形式知の連結化(収集・統合)と内面化(実践行動による体得)は不得手だといわれる。

 そのため、マイネット・ジャパンはオーシャンブリッジと提携し、同社の自動文書公開システム「Net-It Central」を「イントラnewsing」と連携させることによって、社外の有用な情報、社内で評価の高い文書、社員のコメントなどを自由に閲覧・分類・体系化できるようにした。

 このマッシュアップにより、情報収集能力に優れた社員と同じ情報を共有し、特に注目度の高い情報や重要な情報を選択できるようになった。社員間、部門間での情報共有とコミュニケーションの活性化を促すことができるという。

 オーシャンブリッジ代表取締役社長の高山知朗氏は、「これまで全く共有されなかった情報、一部の社員間でしか共有されなかった情報、あるいはメールなどで垂れ流しされ再利用されなかった情報などが共有できるようになり、SECIモデルの知識変換が循環するようになった」と話す。

 だが、見るべき情報の量と種類が飛躍的に増え、それらを網羅的にアクセスすることが難しくなってきている昨今、エンタープライズ2.0を実践しても、まだ情報共有が足りないと感じている企業は多いという。高山氏は、「バーチャルなコミュニケーションは活性化しつつも、人対人のリアルなコミュニケーションで解決すべき問題は残っている」と分析する。

 リアルな人間関係が存在する限り、今後も情報共有は永遠の課題であり続けるのかもしれない(「月刊アイティセレクト」10月号のトレンドフォーカス「動き始めたWeb2.0の企業活用 期待と困惑が交錯するエンタープライズ2.0」より。ウェブ用に再編集した)。

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