組織の課題はパターン・ランゲージで解決――SFC井庭崇研究室ORF2007事前リポート

なぜプロジェクトが進まないのか、どうして組織はダメになるのか。情報共有だけではどうしようもないこれらの問題の解決に「パターン・ランゲージ」の応用を掲げるのは、「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2007」に登場予定の井庭崇氏だ。

» 2007年11月21日 07時00分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 “コラボレーション”という言葉がテレビや雑誌などのメディアをにぎわせている。あるものと別のものを組み合わせて新しい製品やサービスを打ち出すことを指し、IT分野でいうところのマッシュアップのような言葉だ。エンタープライズの分野でも、情報共有やナレッジマネジメントを行うための手法やツールを語る上でコラボレーションという切り口が用いられるようになっている。

 慶應義塾大学総合政策学部専任講師兼政策・メディア研究科委員の井庭崇氏によると、「コラボレーションは、情報共有や知識の足しあわせではなく、ブレインストーミングのように議論の中で新たなアイデアが生まれてくるようなものを指す」という。

 組織やプロジェクトが目的を達成するためには、それを構成するメンバー間で上記のようなコラボレーションが起こらなければならない。だがそういった場では、得てして専門的なノウハウや方法を共有・活用できていない。井庭氏は、建築家のクリストファー・アレクサンダーが建物や街に繰り返し現れる関係性をまとめた「パターン・ランゲージ」をキーワードに研究を進め、これらの課題解決を試みようとしている。

image アレクサンダーのパターン・ランゲージの考えを用いると、その街に住む人の誰もが街づくりに参加できる。住民のためのこの思想を、メンバーによるボトムアップの力が必要となる組織やプロジェクトに運用できるのでは、という点に研究の着眼点を見いだしたという井庭氏

 慶應義塾大学SFC研究所が1年に1度、研究成果を一般公開するイベント「慶應義塾大学SFC Open Research Forum 2007」(ORF2007)が11月22、23日に開催される。22日のセッションでは、井庭崇研究室の取り組みが「ナレッジ・マネジメントの新潮流:パターン・ランゲージによる暗黙知の言語化」というテーマで発表される。そこではパターン・ランゲージの定義、作り方、そして組織やプロジェクトへの適用例などが紹介される予定だ。

 井庭氏の言うパターン・ランゲージは、専門家が持つ暗黙知を目に見える形(形式知)にして、誰もが利用できるようにする試みのことを指す。この考えを基に数々のプロジェクトマネジメント事例から、プロジェクトのノウハウを40のパターンにまとめたものが「プロジェクト・パターン」だ。

 井庭氏はプロジェクト・パターンの使用目的に、「問題解決のコツを知ること」「プロジェクトの将来像をイメージすること」「自分なりのパターンを作ること」を挙げた。組織やプロジェクトが抱える問題は、人に起因することが少なくない。プロジェクト・パターンは、「プロジェクトを進めるためのちょっとしたコツや、考えるためのベースを凝縮したもの。自ら考えることを刺激し、社内インフラの整備だけではうまくいかなかった組織内コミュニケーションの活性化を目指す」(同氏)ものという。今後は大学における学生の研究や、子育てなどを分析し、パターンを作っていく見込みだ。

 ORF2007では、井庭崇研究室以外にもさまざまなセッションが公開される。「学問には大きく分けて知識と方法の2つの面がある。知識はインターネットの出現によって簡単に得られるようになったが、方法はまだ埋もれている状態。SFCの取り組みは、新たな方法を模索・創造し、社会に運用するための実験をする。このような取り組みにまい進している各研究室の姿をORF2007を通じて見ていただきたい」(井庭氏)。

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